あの晩餐会から、数か月が過ぎた。

 父は最後まで厳しい言葉を口にしたけれど、時間が経つにつれ態度は少しずつ和らいでいった。
 悠真の揺るがぬ誠意と、会社を守り抜く実力を目の当たりにして、やがて誰もが彼を副社長ではなく「一人の男」として認めるようになったのだ。



 春の午後、薔薇園を歩いていた。
 十年前、雨に濡れて「忘れる」と言ったあの場所。
 今は柔らかな陽射しに包まれ、色とりどりの薔薇が風に揺れている。

「莉子」
 隣を歩く悠真が、私の名前を呼ぶ。
 その声はもう、迷いも冷たさもなく、ただ優しい。

「十年待たせたな」
 不器用に笑う顔が愛おしくて、私は首を振った。

「いいえ。私も、十年越しにやっと素直になれただけ」



 彼の手を取る。
 その温もりは、あの日と同じ。
 でも、もう二度と離さないと誓える温もりだった。

「……これからも、忘れないで」
「忘れるわけない。君は俺の初恋で、今も、これからも唯一の人だから」

 胸が熱くなり、涙が光る。
 けれど今は、その涙も幸せのしるしだった。



 薔薇の花びらが舞い散る中、私たちは微笑み合った。
 すれ違いも誤解も、すべてを超えて辿り着いた答え。

 ——十年越しの初恋は、ようやく本物の愛へと変わったのだ。