〇学校/廊下
人ごみの中、下を向きながら涙を拭って歩いてる凛真。
凛真(言っちゃった…彩人にひどいこと、言っちゃった)(でも止められなくて…)
心平「サノリマ!」
名前を呼ばれて咄嗟に顔を上げた凛真に驚く。
心平「え、どした…?」
凛真「心平くん…!」
凛真(あ、やばい!めっちゃ泣いたあと見られちゃった!!)
心平「…何があった?」
凛真「ううん、なんでもない!なんでもないよ!」
凛真(あぁ~~~、恥ずかしい~~~~!絶対ぐちゃぐちゃの顔してる…!)
心平「でも…」
凛真「全然、本当に!なんでもないから…ね?」
無理に笑って返す、それに対して寂しそうな顔で。
心平「俺には教えてくれないの?」
凛真「え…?」
その表情に気になる様子の凛真、だけど心平はそれ以上は聞かない。
心平「ごめんな、彩人じゃなくて」
凛真「ううん、全然!そんなこと思ってないよ!!」「それに…今は彩人といたくないし(俯き)」
心平「……。」「本当に2人って付き合ってないの?」
凛真「付き合ってないよ!」
俯いてた凛真、顔を上げる。必死な顔で、それを聞いた心平安心したような顔で笑う。
心平「じゃあ今から俺と一緒に回らない?」
〇学校/外(模擬店)
荷物を片付けて母親と合流する。
彩人「母さんごめん、遅くなって」
彩人母「ぜーんぜんっ!今ね謎解きやってたの、これ案外難しくて!彩人わかる?」
謎解きの用紙を見ながら眉間にしわを寄せて考え中、用紙をくるくる回していろんな方向から見てる。
彩人母「ちっともわかんないの!これ考えたの本当に高校生?すごくない?」
彩人「全部自分たちでやってるからそうだよ」
彩人母「へぇ~、今の高校生はすごいね」「ねぇ、これ彩人はなんだと思う!?」
ずいっと謎解き用紙を隣にいる彩人の方に。用紙を見ようとして彩人母に近付き、ふと用紙の先に目をやると凛真と心平が笑いながら歩いているのを見かける。
凛真の手には一緒に食べようと言っていたカラフルチュロス(ハート形のピンク色の砂糖がかかったチュロスが割り箸に刺さってる)が。
彩人「…!」
彩人、目を見開いて驚く。
彩人母「この図って何?どこを指してんのかさっぱり…」「彩人聞いてる?」
彩人母、彩人の方を見て自分の方を見ていないことに気付く。
彩人母「彩人」
名前を呼ばれてやっと気付く。
彩人「あ、ごめん母さん、俺…」
彩人母、彩人の手を握る。ドクンと心臓が疼く彩人。
手を繋いだままさらに体を寄せるように近付く、細く鋭い視線が彩人を捕まえるように見る。
彩人母「彩人行かないよね?」
ぎゅっと手に力を入れて離さない、彩人も手を離せない。
焦点の合わない目は大きく見開くようにして、背景は彩人の心を現した黒の画面で。
〇学校/外(模擬店)
カラフルチュロスを食べている凛真、食べながらブラブラ歩いてる。
心平「俺めっちゃ舌青くね?」
ベッと舌を見せる。真っ青になってる。
凛真「ほんとだ!すごい青!」
心平「青色のチュロスやべぇな」
食べ終わった割り箸を持ってる。
心平「かき氷のブルーハワイ食べた時みたいなあれとおんなじ」
凛真「色映っちゃってるね」
心平「サノリマは?」
凛真「私のピンクだからわからないんじゃない?」
控えめにベッと舌を出して見せる。
心平「全然わからねぇ」
凛真「だよね」
笑い合って、和やかな空気。
心平「サノリマ、もう大丈夫?」
凛真「え?あ…、うん!大丈夫!ごめんね、変なとこ見せて!」
心平「いや、俺は全然いいんだけどさ」
凛真(心平くんに見られてしまった…)
凛真、恥ずかしそうにしながらパクッとチュロス食べる。
凛真(心平くんびっくりしたよね、呼び止められて私もびっくりしちゃったし…気遣って一緒に回ろうって誘ってくれて)(…優しいな、心平くんは)
凛真「……。」
凛真、最後の一口を食べる。
心平「なぁサノリマ」
凛真「なに?」
心平「ちょっとサノリマに言いたいことがあるんだけど」
凛真「うん」
心平「今のタイミングか?って言ったらあれだけど、これ今のタイミングだからこそかなって!」
凛真「うん…、なに?」
もぐもぐしながら、心平を見上げる。
心平「あ、でもここだとちょっとあれだからー…あっちで!あっちで聞いてほしい!」
凛真「?」「うん、わかった」
ごくんっとチュロスを飲み込んで、持っていた割り箸を近くにあったゴミ箱に捨て心平の後をついていく。
心平「あのさ…、さっきも聞いたんだけどサノリマって彩人と付き合ってないんだよな?」
凛真の前を歩いて振り返らずにそのまま聞く。
凛真「付き合ってないよ!彩人とは幼馴染だから!」
心平「そうだよな、そうなんだよな」
凛真「うん…」
凛真(心平くんどうしたのかな?いつもとちょっと違う…)
どんどん人気の少ないところへ向かって、校舎の中に入っていく。
心平「サノリマと彩人って仲良いし、いつも一緒にいるから」
凛真「なんかそれは…癖みたいな感じじゃないかな?」
心平「癖?」
歩きながら少しだけ振り返って見る。
凛真「子供の頃から一緒だから変えられない癖、みたいな…そんな感じの」
凛真(ずっと一緒にいたから、それが染みついちゃって…それがあたりまえをも通り越して)
空き教室の前にたどり着く。
凛真(だから私も彩人も変わらないままなんだ)
ガラッと空き教室のドアを開け、振り返って凛真のことを見る。
心平「じゃあさ、サノリマが泣いてたのって彩人のせい?」
しーんとした教室に心平の声が響く。
凛真「それは…」
目を泳がせて下を向く。
心平「やっぱそーだよな~、他にいねぇよな~」
凛真「あのねっ」
教室の中に入っていく心平を追いかけて中に入る凛真。
心平「サノリマ泣かす奴なんて」
眉をハの字にして悲しそうに笑って凛真の方を見る、その表情に言葉を飲み込む凛真。
心平「俺さ、彩人に勝てるとこなんかマジでないんだけど」
せめて笑おうとした顔で、時折凛真のことを見ながら。
心平「あいつ普通に顔いいし、恥ずかしげもなく好きだとか言えるし、やりすぎなとこあるけど真っ直ぐだし…だからたぶん勝てるとこないけど」
凛真「そんなこと…」
心平「いやあるある、俺でっかいだけで何の取り柄もないし」「でもさ、俺…」
一度逸らした視線を凛真の方へ、グッと瞳に力を入れてを目を合わせる。
心平「サノリマのこと絶対泣かさない」
静かな教室、真剣な眼差しな心平。
少し驚いたような表情の凛真。
心平「だからサノリマ俺とっ」
彩人「何してんの?(冷たい声)」
ドアに寄りかかるように立ってる。声の方向にハッとした顔で振り返る2人。
彩人「(心平に向かって)当番交代だってさ」
心平「…っ」
彩人「行かなくていいの?早く行かないと迷惑かかるよ?」※冷たい視線で
心平「彩人…っ」
彩人「早く行きなよ(冷たく低い声)」
凛真「彩人そんな言い方…!」
彩人の冷たい瞳に唇を噛んで険しい顔をする心平、一呼吸おいて凛真の方を見る。
心平「サノリマごめん、俺行くわ」
凛真「ごめんね心平くん!」
心平、彩人の方をチラッと見ると睨み返して張り詰めた空気が流れ教室を出ていく。
凛真「彩人!」「今のはよくないよ!どうして心平くんにそんな言い方するの!?」
凛真「心平くん困ってたじゃん!なんでっ」
その瞬間、教室に入って来た彩人が力づくでドンっと凛真を体ごと壁に押し付ける。
凛真「…っ!」
背中への衝撃で声が出ない凛真。
彩人「あいつと何してたの?」
逃げられないように両手を壁について凛真を囲って、顔を近付ける。
彩人「何してたの?」
キッと目に力を入れて。
凛真「別に何もしてないよっ」
彩人「本当に?」
凛真「本当だよ!」
少しかがんでじっと瞬きもせず凛真の目を見る。
彩人「じゃあ何話してた?」
凛真「何って…」
凛真の思い出し/「サノリマが泣いてたのって彩人のせい?」
心平に言われたこの言葉にドキッして顔が熱くなる。それにすぐ気付いた彩人。
彩人「何言われたんだよ!?」
凛真「普通に話してただけ!」
彩人「普通に話してるだけとかある?」
凛真「あるよ!それに彩人が来た心平くんの話も途中になっちゃたし!」「だから何かあるとか…っ」
―!
彩人、凛真を抱きしめる。凛真びっくりする。
彩人「もうあいつに近付かないで」
凛真「…なんで?」
彩人「あいつと2人にならないで」
凛真「…(困った表情)。」
凛真の肩に顔をうずめる。
凛真「凛真があいつといるの嫌だから」
凛真、顔が赤くなって泣きそうな表情。手のやり場に困ってる。
凛真「…心平くんとは友達だよ、友達としゃべってただけで何もないよっ」
彩人「あいつはそうは思ってないけど?」
顔を上げて至近距離で凛真のことを見る。目が冷たい。
凛真「…っ!」
凛真(なんでそんな目で見るの…?)
かと思えば寂しそうな目をして。
彩人「凛真のこと誰にも取られたくない」
ぎゅっと抱きしめる。
彩人「誰にも奪われたくない」
ぎゅっと力を強くする。
凛真「…っ、彩人痛いっ」
あまりの力に離れようとするも出来ない。
彩人「凛真のこと離したくない…!」
凛真の力ではどうにもならないくらい強く抱きしめる。
凛真「彩人、そんな強く…っ」「ねぇやめて、苦しい…!」
ぐーっと彩人の体を押して引き離そうとするも敵わない。
凛真「彩人…っ」
凛真(彩人震えてる!?)(手が震えてる…?)
凛真(何かー…)
手の震えを隠すみたいに強く抱きしめる。
凛真「痛…っ」
凛真(強い…全然力が…っ)(苦しい…)
凛真「彩…っ、痛い…」
彩人「俺は凛真のものじゃないの?」
彩人の腕の中でハッとした顔をする凛真。
彩人「凛真のものなんでしょ?そうなんでしょ!?」「じゃあ俺のことだけ見てろよ(大きくなる声)…!!」
急にしんったした彩人、泣きそうな顔をする。
彩人「凛真のこと母さんと重ねてなんかっ」
凛真「(彩人が言い終わらないうちに)私は彩人のものじゃないよ」
淡々と静かな声で話し出す。
凛真「彩人だって私のものじゃない、そんな所有物みたいな言い方しないで」
それに戸惑って抱きしめてた力が弱くなる。
彩人「凛真?」
目を合わせる2人。
凛真「彩人は彩人なんだから」「自分の気持ち、ちゃんと考えて」
彩人「……。」
真っ直ぐ見つめ合って。
凛真「ね?」※精一杯の作り笑顔
凛真「私もう行くね、まだ係の仕事することあるんだ」
とんっと彩人の体を押して離れる。力のなくなった彩人は凛真の軽い力でもよろけるぐらい。
教室を出る凛真、振り返ることなくタタタッと走っていく。乗り残された彩人、俯いたまま。
〇学校/廊下
戻って来た凛真、自分のクラスの前ちょうど出て来た樹音と会う。ドレスから着替えて制服姿に戻ってる。
樹音「凛真どうしたの!?」
凛真泣いてる、ポロポロ涙がこぼれて来てるのに拭きもしないで立ってる。
樹音「えっ、何かあった!?あ~っ、場所変える!?どっか別のとこでっ」
凛真「彩人とケンカした」
樹音「え?ケンカ…?彩人と!?」
凛真、下を見る。やっと涙を拭いて。
樹音「……。」
凛真「もう無理かもしれない」
樹音「無理って…」
樹音「……。」
困った様子でふぅっと息を吐く。
樹音「ずっと思ってたけど、凛真って彩人のことが好きだよね?」「好きじゃないって言ってたけどっ」
凛真「好き」
樹音「え、今っ(思わぬ返答に驚く)」
凛真(本当はずっと好きだった)(子供の頃からずっとずっと好きだった、彩人のこと)
樹音「え、じゃあなんで返事OKしないの?」
凛真「彩人は私のこと好きなんかじゃないから」
引きの画、ワイワイ賑わう文化祭の中俯く凛真とそれを心配そうに見る樹音(でも角度的に表情は見えない絵)。
凛真(わかってる、重ねてなんかないことわかってるよ)(わかってるからー…)
凛真(本当に彩人が好きなのはお母さんってこと)
〇彩人の家《過去の回想》
ボロボロな小さなアパート、部屋の中はぐちゃぐちゃで脱ぎ散らかした服に鞄、ゴミが床に散乱している。
部屋の真ん中にあるテーブルの上には食べ散らかしたお菓子やカップ麺、母親のメイク道具がざっくばらんに置いてある。外はミーンミーンをセミが鳴いている。
床にあぐらをかいて座る彩人母、丁寧に化粧をしている。部屋の隅っこでちょこんっと座っている彩人(5歳)、じっと母親のこと見てる。
彩人母「できた!」
塗ったリップをテーブルに置いて、ささっと髪の毛を手櫛でとく。Tシャツ短パンの軽い服の母親、近くに会った小さなショルダーバッグを肩にかけてスマホを持って立ち上がる。誰かに電話し始める。
彩人母「あ、もしもし?行けるよ!」「うん、うん…マジ~?」
笑いながら電話してる、玄関の方へ歩いていく。その後ろ姿をじっと見てる彩人。
あやと(まま…)
彩人母「おっけー!じゃ、すぐ行く~!」
電話を切ろうとした瞬間、走り出して母親の手を掴む彩人。母親、振り返って彩人を見る。
彩人母「(嫌そうに)何?」
あやと「…どこいくの?」
彩人母「別に、どこでもいーじゃん」
ぎゅっと手を握るとさらに嫌そうな顔をされる。
彩人母「あたし出かけるんだけど」
あやと「まま、すぐかえってくる?」
彩人母「はいはい、帰ってくるから」
あやと「ほんとうにかえってくる?」
彩人母「帰ってくるし、ちょっと遊び行くだけじゃん!」
彩人の方を睨みつける。両手で母親の手を掴む。
彩人母「ちょっと何すんっ」
あやと「いかないで、まま」
彩人母「あやとといて!」
泣きそうな顔で掴んだ手を引っ張って部屋の中に戻そうとする。
あやと「まま…!」
母親も引っ張り返す。
彩人母「ちょっと…っ、もう時間ないんだけど!」
あやと「まま…っ、あやとおいてかないでっ」
彩人母「やめてってば…!」
あやと「まま…っ!」
彩人母「離して!鬱陶しい…!!」
無理やり手を振り払われ、その反動で転ぶ彩人。驚いて母親の方を見ると、形相を変えて彩人の方を見ている。
そのまま何も言わず出ていく母親、バタンッとドアの音だけが聞こえる。
〇学校/廊下
人で賑わう廊下、とぼとぼと1人歩いている彩人。じっと右手を見つめてる。
彩人「……。」
その手は少し震えてる。ぎゅっと握って、視線を落とす。
彩人(……。)
心平「彩人ーーーーーーーーっ」
廊下の遠く先から大声で叫ぶ。
心平「お前何してんだよ!ミスミスタコン始まるぞ!!」
両手を口の隣に添えて叫んでる。彩人、びっくりして振り返る。
彩人「はぁ!?」
心平、走って向かってくる。
心平「早く来いよ!始まるだろーが!」
彩人「知らねぇーよ!つーかお前と話したくねぇーんだよ!」
めっちゃ睨みつける。
心平「それはこっちのセリフだよ!俺だってなぁ、彩人と話したくもねーし顔合わせたくもねーけど今はそれどころじゃねぇんだよ!」
彩人「それどころじゃねぇってなんだよ、何がそんなにっ」「!?」
足を止めることなく心平走ってくる。このままぶつかるんじゃないかという勢いで彩人めがけて走ってくる。
彩人「ちょっとおまっ」
ひょいっと彩人を担ぐ。
彩人「は?」
心平「クラスの勝ちがかかってんだよ!行くぞ!!」
心平、彩人を担いだままさっきと同じ勢いで走っていく。
彩人「ふざけんなーーーーーーーーっ」
人ごみの中、下を向きながら涙を拭って歩いてる凛真。
凛真(言っちゃった…彩人にひどいこと、言っちゃった)(でも止められなくて…)
心平「サノリマ!」
名前を呼ばれて咄嗟に顔を上げた凛真に驚く。
心平「え、どした…?」
凛真「心平くん…!」
凛真(あ、やばい!めっちゃ泣いたあと見られちゃった!!)
心平「…何があった?」
凛真「ううん、なんでもない!なんでもないよ!」
凛真(あぁ~~~、恥ずかしい~~~~!絶対ぐちゃぐちゃの顔してる…!)
心平「でも…」
凛真「全然、本当に!なんでもないから…ね?」
無理に笑って返す、それに対して寂しそうな顔で。
心平「俺には教えてくれないの?」
凛真「え…?」
その表情に気になる様子の凛真、だけど心平はそれ以上は聞かない。
心平「ごめんな、彩人じゃなくて」
凛真「ううん、全然!そんなこと思ってないよ!!」「それに…今は彩人といたくないし(俯き)」
心平「……。」「本当に2人って付き合ってないの?」
凛真「付き合ってないよ!」
俯いてた凛真、顔を上げる。必死な顔で、それを聞いた心平安心したような顔で笑う。
心平「じゃあ今から俺と一緒に回らない?」
〇学校/外(模擬店)
荷物を片付けて母親と合流する。
彩人「母さんごめん、遅くなって」
彩人母「ぜーんぜんっ!今ね謎解きやってたの、これ案外難しくて!彩人わかる?」
謎解きの用紙を見ながら眉間にしわを寄せて考え中、用紙をくるくる回していろんな方向から見てる。
彩人母「ちっともわかんないの!これ考えたの本当に高校生?すごくない?」
彩人「全部自分たちでやってるからそうだよ」
彩人母「へぇ~、今の高校生はすごいね」「ねぇ、これ彩人はなんだと思う!?」
ずいっと謎解き用紙を隣にいる彩人の方に。用紙を見ようとして彩人母に近付き、ふと用紙の先に目をやると凛真と心平が笑いながら歩いているのを見かける。
凛真の手には一緒に食べようと言っていたカラフルチュロス(ハート形のピンク色の砂糖がかかったチュロスが割り箸に刺さってる)が。
彩人「…!」
彩人、目を見開いて驚く。
彩人母「この図って何?どこを指してんのかさっぱり…」「彩人聞いてる?」
彩人母、彩人の方を見て自分の方を見ていないことに気付く。
彩人母「彩人」
名前を呼ばれてやっと気付く。
彩人「あ、ごめん母さん、俺…」
彩人母、彩人の手を握る。ドクンと心臓が疼く彩人。
手を繋いだままさらに体を寄せるように近付く、細く鋭い視線が彩人を捕まえるように見る。
彩人母「彩人行かないよね?」
ぎゅっと手に力を入れて離さない、彩人も手を離せない。
焦点の合わない目は大きく見開くようにして、背景は彩人の心を現した黒の画面で。
〇学校/外(模擬店)
カラフルチュロスを食べている凛真、食べながらブラブラ歩いてる。
心平「俺めっちゃ舌青くね?」
ベッと舌を見せる。真っ青になってる。
凛真「ほんとだ!すごい青!」
心平「青色のチュロスやべぇな」
食べ終わった割り箸を持ってる。
心平「かき氷のブルーハワイ食べた時みたいなあれとおんなじ」
凛真「色映っちゃってるね」
心平「サノリマは?」
凛真「私のピンクだからわからないんじゃない?」
控えめにベッと舌を出して見せる。
心平「全然わからねぇ」
凛真「だよね」
笑い合って、和やかな空気。
心平「サノリマ、もう大丈夫?」
凛真「え?あ…、うん!大丈夫!ごめんね、変なとこ見せて!」
心平「いや、俺は全然いいんだけどさ」
凛真(心平くんに見られてしまった…)
凛真、恥ずかしそうにしながらパクッとチュロス食べる。
凛真(心平くんびっくりしたよね、呼び止められて私もびっくりしちゃったし…気遣って一緒に回ろうって誘ってくれて)(…優しいな、心平くんは)
凛真「……。」
凛真、最後の一口を食べる。
心平「なぁサノリマ」
凛真「なに?」
心平「ちょっとサノリマに言いたいことがあるんだけど」
凛真「うん」
心平「今のタイミングか?って言ったらあれだけど、これ今のタイミングだからこそかなって!」
凛真「うん…、なに?」
もぐもぐしながら、心平を見上げる。
心平「あ、でもここだとちょっとあれだからー…あっちで!あっちで聞いてほしい!」
凛真「?」「うん、わかった」
ごくんっとチュロスを飲み込んで、持っていた割り箸を近くにあったゴミ箱に捨て心平の後をついていく。
心平「あのさ…、さっきも聞いたんだけどサノリマって彩人と付き合ってないんだよな?」
凛真の前を歩いて振り返らずにそのまま聞く。
凛真「付き合ってないよ!彩人とは幼馴染だから!」
心平「そうだよな、そうなんだよな」
凛真「うん…」
凛真(心平くんどうしたのかな?いつもとちょっと違う…)
どんどん人気の少ないところへ向かって、校舎の中に入っていく。
心平「サノリマと彩人って仲良いし、いつも一緒にいるから」
凛真「なんかそれは…癖みたいな感じじゃないかな?」
心平「癖?」
歩きながら少しだけ振り返って見る。
凛真「子供の頃から一緒だから変えられない癖、みたいな…そんな感じの」
凛真(ずっと一緒にいたから、それが染みついちゃって…それがあたりまえをも通り越して)
空き教室の前にたどり着く。
凛真(だから私も彩人も変わらないままなんだ)
ガラッと空き教室のドアを開け、振り返って凛真のことを見る。
心平「じゃあさ、サノリマが泣いてたのって彩人のせい?」
しーんとした教室に心平の声が響く。
凛真「それは…」
目を泳がせて下を向く。
心平「やっぱそーだよな~、他にいねぇよな~」
凛真「あのねっ」
教室の中に入っていく心平を追いかけて中に入る凛真。
心平「サノリマ泣かす奴なんて」
眉をハの字にして悲しそうに笑って凛真の方を見る、その表情に言葉を飲み込む凛真。
心平「俺さ、彩人に勝てるとこなんかマジでないんだけど」
せめて笑おうとした顔で、時折凛真のことを見ながら。
心平「あいつ普通に顔いいし、恥ずかしげもなく好きだとか言えるし、やりすぎなとこあるけど真っ直ぐだし…だからたぶん勝てるとこないけど」
凛真「そんなこと…」
心平「いやあるある、俺でっかいだけで何の取り柄もないし」「でもさ、俺…」
一度逸らした視線を凛真の方へ、グッと瞳に力を入れてを目を合わせる。
心平「サノリマのこと絶対泣かさない」
静かな教室、真剣な眼差しな心平。
少し驚いたような表情の凛真。
心平「だからサノリマ俺とっ」
彩人「何してんの?(冷たい声)」
ドアに寄りかかるように立ってる。声の方向にハッとした顔で振り返る2人。
彩人「(心平に向かって)当番交代だってさ」
心平「…っ」
彩人「行かなくていいの?早く行かないと迷惑かかるよ?」※冷たい視線で
心平「彩人…っ」
彩人「早く行きなよ(冷たく低い声)」
凛真「彩人そんな言い方…!」
彩人の冷たい瞳に唇を噛んで険しい顔をする心平、一呼吸おいて凛真の方を見る。
心平「サノリマごめん、俺行くわ」
凛真「ごめんね心平くん!」
心平、彩人の方をチラッと見ると睨み返して張り詰めた空気が流れ教室を出ていく。
凛真「彩人!」「今のはよくないよ!どうして心平くんにそんな言い方するの!?」
凛真「心平くん困ってたじゃん!なんでっ」
その瞬間、教室に入って来た彩人が力づくでドンっと凛真を体ごと壁に押し付ける。
凛真「…っ!」
背中への衝撃で声が出ない凛真。
彩人「あいつと何してたの?」
逃げられないように両手を壁について凛真を囲って、顔を近付ける。
彩人「何してたの?」
キッと目に力を入れて。
凛真「別に何もしてないよっ」
彩人「本当に?」
凛真「本当だよ!」
少しかがんでじっと瞬きもせず凛真の目を見る。
彩人「じゃあ何話してた?」
凛真「何って…」
凛真の思い出し/「サノリマが泣いてたのって彩人のせい?」
心平に言われたこの言葉にドキッして顔が熱くなる。それにすぐ気付いた彩人。
彩人「何言われたんだよ!?」
凛真「普通に話してただけ!」
彩人「普通に話してるだけとかある?」
凛真「あるよ!それに彩人が来た心平くんの話も途中になっちゃたし!」「だから何かあるとか…っ」
―!
彩人、凛真を抱きしめる。凛真びっくりする。
彩人「もうあいつに近付かないで」
凛真「…なんで?」
彩人「あいつと2人にならないで」
凛真「…(困った表情)。」
凛真の肩に顔をうずめる。
凛真「凛真があいつといるの嫌だから」
凛真、顔が赤くなって泣きそうな表情。手のやり場に困ってる。
凛真「…心平くんとは友達だよ、友達としゃべってただけで何もないよっ」
彩人「あいつはそうは思ってないけど?」
顔を上げて至近距離で凛真のことを見る。目が冷たい。
凛真「…っ!」
凛真(なんでそんな目で見るの…?)
かと思えば寂しそうな目をして。
彩人「凛真のこと誰にも取られたくない」
ぎゅっと抱きしめる。
彩人「誰にも奪われたくない」
ぎゅっと力を強くする。
凛真「…っ、彩人痛いっ」
あまりの力に離れようとするも出来ない。
彩人「凛真のこと離したくない…!」
凛真の力ではどうにもならないくらい強く抱きしめる。
凛真「彩人、そんな強く…っ」「ねぇやめて、苦しい…!」
ぐーっと彩人の体を押して引き離そうとするも敵わない。
凛真「彩人…っ」
凛真(彩人震えてる!?)(手が震えてる…?)
凛真(何かー…)
手の震えを隠すみたいに強く抱きしめる。
凛真「痛…っ」
凛真(強い…全然力が…っ)(苦しい…)
凛真「彩…っ、痛い…」
彩人「俺は凛真のものじゃないの?」
彩人の腕の中でハッとした顔をする凛真。
彩人「凛真のものなんでしょ?そうなんでしょ!?」「じゃあ俺のことだけ見てろよ(大きくなる声)…!!」
急にしんったした彩人、泣きそうな顔をする。
彩人「凛真のこと母さんと重ねてなんかっ」
凛真「(彩人が言い終わらないうちに)私は彩人のものじゃないよ」
淡々と静かな声で話し出す。
凛真「彩人だって私のものじゃない、そんな所有物みたいな言い方しないで」
それに戸惑って抱きしめてた力が弱くなる。
彩人「凛真?」
目を合わせる2人。
凛真「彩人は彩人なんだから」「自分の気持ち、ちゃんと考えて」
彩人「……。」
真っ直ぐ見つめ合って。
凛真「ね?」※精一杯の作り笑顔
凛真「私もう行くね、まだ係の仕事することあるんだ」
とんっと彩人の体を押して離れる。力のなくなった彩人は凛真の軽い力でもよろけるぐらい。
教室を出る凛真、振り返ることなくタタタッと走っていく。乗り残された彩人、俯いたまま。
〇学校/廊下
戻って来た凛真、自分のクラスの前ちょうど出て来た樹音と会う。ドレスから着替えて制服姿に戻ってる。
樹音「凛真どうしたの!?」
凛真泣いてる、ポロポロ涙がこぼれて来てるのに拭きもしないで立ってる。
樹音「えっ、何かあった!?あ~っ、場所変える!?どっか別のとこでっ」
凛真「彩人とケンカした」
樹音「え?ケンカ…?彩人と!?」
凛真、下を見る。やっと涙を拭いて。
樹音「……。」
凛真「もう無理かもしれない」
樹音「無理って…」
樹音「……。」
困った様子でふぅっと息を吐く。
樹音「ずっと思ってたけど、凛真って彩人のことが好きだよね?」「好きじゃないって言ってたけどっ」
凛真「好き」
樹音「え、今っ(思わぬ返答に驚く)」
凛真(本当はずっと好きだった)(子供の頃からずっとずっと好きだった、彩人のこと)
樹音「え、じゃあなんで返事OKしないの?」
凛真「彩人は私のこと好きなんかじゃないから」
引きの画、ワイワイ賑わう文化祭の中俯く凛真とそれを心配そうに見る樹音(でも角度的に表情は見えない絵)。
凛真(わかってる、重ねてなんかないことわかってるよ)(わかってるからー…)
凛真(本当に彩人が好きなのはお母さんってこと)
〇彩人の家《過去の回想》
ボロボロな小さなアパート、部屋の中はぐちゃぐちゃで脱ぎ散らかした服に鞄、ゴミが床に散乱している。
部屋の真ん中にあるテーブルの上には食べ散らかしたお菓子やカップ麺、母親のメイク道具がざっくばらんに置いてある。外はミーンミーンをセミが鳴いている。
床にあぐらをかいて座る彩人母、丁寧に化粧をしている。部屋の隅っこでちょこんっと座っている彩人(5歳)、じっと母親のこと見てる。
彩人母「できた!」
塗ったリップをテーブルに置いて、ささっと髪の毛を手櫛でとく。Tシャツ短パンの軽い服の母親、近くに会った小さなショルダーバッグを肩にかけてスマホを持って立ち上がる。誰かに電話し始める。
彩人母「あ、もしもし?行けるよ!」「うん、うん…マジ~?」
笑いながら電話してる、玄関の方へ歩いていく。その後ろ姿をじっと見てる彩人。
あやと(まま…)
彩人母「おっけー!じゃ、すぐ行く~!」
電話を切ろうとした瞬間、走り出して母親の手を掴む彩人。母親、振り返って彩人を見る。
彩人母「(嫌そうに)何?」
あやと「…どこいくの?」
彩人母「別に、どこでもいーじゃん」
ぎゅっと手を握るとさらに嫌そうな顔をされる。
彩人母「あたし出かけるんだけど」
あやと「まま、すぐかえってくる?」
彩人母「はいはい、帰ってくるから」
あやと「ほんとうにかえってくる?」
彩人母「帰ってくるし、ちょっと遊び行くだけじゃん!」
彩人の方を睨みつける。両手で母親の手を掴む。
彩人母「ちょっと何すんっ」
あやと「いかないで、まま」
彩人母「あやとといて!」
泣きそうな顔で掴んだ手を引っ張って部屋の中に戻そうとする。
あやと「まま…!」
母親も引っ張り返す。
彩人母「ちょっと…っ、もう時間ないんだけど!」
あやと「まま…っ、あやとおいてかないでっ」
彩人母「やめてってば…!」
あやと「まま…っ!」
彩人母「離して!鬱陶しい…!!」
無理やり手を振り払われ、その反動で転ぶ彩人。驚いて母親の方を見ると、形相を変えて彩人の方を見ている。
そのまま何も言わず出ていく母親、バタンッとドアの音だけが聞こえる。
〇学校/廊下
人で賑わう廊下、とぼとぼと1人歩いている彩人。じっと右手を見つめてる。
彩人「……。」
その手は少し震えてる。ぎゅっと握って、視線を落とす。
彩人(……。)
心平「彩人ーーーーーーーーっ」
廊下の遠く先から大声で叫ぶ。
心平「お前何してんだよ!ミスミスタコン始まるぞ!!」
両手を口の隣に添えて叫んでる。彩人、びっくりして振り返る。
彩人「はぁ!?」
心平、走って向かってくる。
心平「早く来いよ!始まるだろーが!」
彩人「知らねぇーよ!つーかお前と話したくねぇーんだよ!」
めっちゃ睨みつける。
心平「それはこっちのセリフだよ!俺だってなぁ、彩人と話したくもねーし顔合わせたくもねーけど今はそれどころじゃねぇんだよ!」
彩人「それどころじゃねぇってなんだよ、何がそんなにっ」「!?」
足を止めることなく心平走ってくる。このままぶつかるんじゃないかという勢いで彩人めがけて走ってくる。
彩人「ちょっとおまっ」
ひょいっと彩人を担ぐ。
彩人「は?」
心平「クラスの勝ちがかかってんだよ!行くぞ!!」
心平、彩人を担いだままさっきと同じ勢いで走っていく。
彩人「ふざけんなーーーーーーーーっ」



