〇学校/保健室
凛真のことを後ろから抱きしめてる彩人。ドキドキ静かに心臓が音を出している。
前回の思い出し『俺を凛真のものにしてー…?』
凛真「彩人っ」
―ガラッ
ドアが開いてドキッとする凛真、全く動じない彩人。
心平「あ、悪い」「お取込み中だった?」
彩人「(睨む)お取込みちゅっ」
凛真「全然!大丈夫!」
バッと離れて、必死に話す凛真。
凛真「心平くんどうかしたの?怪我!?」
心平「ううん、サノリマ探しててさっき保健室行ったって聞いて」
凛真「え、ごめんね!何の用だった!?」
彩人から遠ざかって心平の方へ。
心平「…サノリマ大丈夫?」
凛真「うん、全然大丈夫だよ!」
心平「そ?」
凛真「うん…?」
意味深な心平の言い方が引っかかる。
心平「で、ちなみに探してるのは俺じゃなくて樹音ね!教室にいる!」
凛真「ほんと!?なんかあったのかな?」「私ちょっと行ってくるね!」
バタバタと保健室から駆けてく。
彩人と心平だけになる保健室。
彩人「…何?タイミング見計らったように」
心平「別に?偶然じゃね?」
彩人「(睨みつけて)わざと?」
心平「(同じく睨み返して)だったら?」
少し目を大きくする彩人。
対立する2人、これ以上は何も言わないまましんっとする保健室。
〇学校/教室
凛真モノ『お日柄もよい本日は、晴天に恵まれ気分も好調でございます!』『さぁさぁ!本日は文化祭のはじまりはじまり~!!』
折り紙や画用紙で飾った教室の中はドレスやチャイナ服を着て写真を楽しむ人々、その裏でてんやわんや忙しそうな様子。
女子「佐野ちゃんっ、衣装足りないって言うんだけど!?」
凛真「そっちにまだあるよ!」
男子「佐野!背景のカーテンない!!」
凛真「ここに!今持っ」
彩人「俺持ってく」
ダンボールの中、詰め込まれていたカーテンを取ろうとして彩人が代わりに持ってくれる。
凛真「彩人…!ありがっ」
彩人「カーテンって言ったやつ誰?取りに来いよ」
凛真「って彩人が持って行ってくれるんじゃないんだ!?」
取りに来させる彩人を見て。
凛真(今日はいつになくやる気だなぁ…)
凛真の代わりに彩人が動く、誰も凛真に近付けさせないように。
凛真(動きが機敏だ)
凛真「……。」
凛真(ただやる気なだけならいいけど)
女子「持田くん衣装着てくれる!?お客さん待ってるから」
彩人「(嫌そう)……。」
凛真「彩人…、隣更衣室になってるから」
彩人「じゃあ凛真も来て」
凛真「無理だよ!着替えだもん!」
彩人「俺はいいよ」
凛真「私がよくないの!」「ほら早く行って!みんな待ってるから!」
ぐいぐいと背中を押されながら不服そうに教室を出て行こうとする彩人。
振り返ってぐっと瞳に力を入れて心平の方を見る。
彩人「いい、凛真?絶対誰も半径10メートル以内に近付けさせないようにね!!」
凛真「なんで!?」「無謀すぎだし!」
シュンッと走って隣の教室へ向かう彩人を見送る。
凛真(…?なんかあった??)
それをちょっと離れていたところで見ていた心平、樹音。
心平「(困り顔)……。」
樹音「彩人に何かした?」
心平「…ちょっと触発しすぎた」
樹音「は?」
〇学校/教室
彩人、王子様衣装に着替えて戻って来る。キャーキャー言いながら女子たちが取り囲み写真撮り放題。
女子「一緒に撮ってくださぁーい!」
彩人「一緒の撮影はお断りします」
女子「「「え~っ」」」
営業スマイルばりの笑顔で、ポーズ決める。
彩人「俺の隣に並べると思ってんの?」
女子「「「キャーーーーッ♡♡」」」
パシャパシャパシャ、と写真を撮る音。
凛真(だから自分で言わないんだってば)※呆れ顔
樹音(ドレス着用中)「凛真!」
凛真「あ、樹音。どうしたの?」
樹音「本当に着なくていいの?本当は着たいんじゃないの?」
凛真「私は…」「私はいいよ、似合わないし」
一瞬考えて、笑って見せる。
樹音「でも…」
凛真「いいのいいの!それより大盛況でうれしいね!」
樹音「ね!クラス企画優勝狙えるかな~!?」「まぁこれもあれもすべては彩人次第、って感じだけど」
女子たちに取り囲まれる彩人の方を見る、少し複雑そうな顔を浮かべる凛真。
〇学校/廊下
文化祭に遊びに来てる人で賑わってる。
呼び込みをしていた凛真ふぅっと息をつく、王子様衣装から制服に戻った彩人来る。
彩人「りーまっ」「お疲れ」
凛真「彩人もお疲れ、大変だったよね」
彩人「凛真、誰かに何かされてない!?触られてない?言われてない?でっかい陽キャに変なことされてない!!?」
凛真「何もないよ!てゆーか誰の話してるの!?」
シャーと猫の威嚇のような表情からいつも通りになる彩人、満足したのかにこっと笑う。
彩人「ねぇ今から休憩だよね?一緒に回ろ?」
凛真、見上げて彩人の顔を見る。
凛真「…うん!」
〇学校/廊下
わいわい賑わう廊下を並んで歩く2人。凛真が持つ文化祭パンフを彩人がのぞき込んで話し合い。
彩人「どこ行く?凛真見たいのある?それか食べたいのとか」
凛真「うーん、迷う…彩人はないの?」
彩人「凛真と一緒ならどこでも(にっこり)♡」
凛真「……。」「じゃあこのカラフルチュロス行きたい!かわいい!」
彩人「いいよ、えっとそれどこかな…あ、別の棟か」「じゃあこっちだな」
廊下を右に曲がる彩人についていく、何か言いたそうな顔で彩人の後ろ姿を見ながら歩いて隣に並ぶ。
凛真「ねぇ彩人」
彩人「ん」
彩人の方を見上げる。
凛真「言うこと1つ聞いてって私何すればいいの?」「あ、チュロスおごろうか!チュロスじゃなくてもいいよ、なんか彩人の好きなもの!」
彩人「(つんとして)いらない、それは俺が決めるの」
凛真「……。」
凛真(何させられるんだろうってちょっと不安だったから先手を打とうと思ったのに)
凛真「…じゃあ何?」
彩人「それはまだ教えなーい♡」
凛真「(不安顔)……。」
凛真「言っとくけどできる範疇だよ!そこちゃんと考えてね!?」「ねぇ彩人わかってる!?」
彩人「…。」「学校1週間ぐらい休むのは平気?(にこっとして)」
凛真「無理だよ!!」
彩人「たった1週間だよ?人生のうちの1週間」
凛真「高校1年生の2学期の1週間!」
彩人「えー、ハワイ行きたかったな~」
凛真「普通に無理だよ!!!」
話しながら賑わう廊下を歩く2人の前にキレイな女の人が現れる。
女「彩人!」
背中まである茶髪ストレートに派手なメイク、Tシャツにシャツ、ミニスカート、サングラス、小さなバッグを持った160センチぐらいの女。
女「来ちゃった」
サングラスを外す。
彩人「母さん…!」
女は彩人の母親。彩人、戸惑う表情で。
彩人「なんで…?」
彩人母「なんでって、この学校って一般参加自由なんでしょ?だから来た」「凛真ちゃんも久しぶり~!」
凛真「お久し…ぶりです」
ぺこっと軽く会釈して、そのまま彩人の方を心配そうに伺うと少し顔がこわばってる。
彩人母「彩人、案内してよ」
彩人「…(凛真の方を見る)。」
凛真「あ、私はいいよ!彩人、お母さん案内してあげて!」
彩人「じゃあ凛真も一緒に」
凛真「え、でも私はっ」
彩人「いいよね?」
彩人母「あたしはいいよ、凛真ちゃんともしゃべりたいし」
凛真「じゃあ…、少しだけ」
〇学校/教室(他クラス企画喫茶店)
4つの机をくっつけて上からテーブルクロスがかけてある。凛真の隣には彩人、彩人の前に彩人母が座っている。テーブルにはクッキーと飲み物が置いてある。
彩人母「ここの文化祭すごいね、お店いっぱい出てるじゃん」
彩人「だから結構人も来てるよ」
彩人母「パンフも何ページもあるもんね!見てるだけで楽しい~!」
彩人「母さん何か気になるのあった?」
彩人母「あのねぇこのクール&キュート写真館っていう」
彩人「あ、それはいいや」
凛真「……。」
凛真(彩人楽しそうだな)
ストローでオレンジジュースを飲みながら2人の話す様子を見ている。
凛真(大丈夫かなーって思ったけど、むしろお母さん来てうれしそうだしいらない心配だったかも)
笑いながら母親と楽しそうに話してる姿見て。
ずっと2人だけで話してる、会話弾んでる。
凛真(急だったからちょっと緊張してたのかなぁ)(いつもより声高いし)
彩人母「ちょっとこれ見てよ、こないだ撮ったんだけどねほらこの写真〜!」
彩人「何それどーなってんの?」
キャッキャ笑い合ってる。
凛真(笑い声が飛び上がってる…!)
凛真「……。」
ゆっくりコップをテーブルに置く。
凛真(…でもそうだよね、昔はあんまり一緒にいられなかったからうれしいよねきっと)(昔はあんまりいられなかったもんね…)
凛真の回想/過去(5歳くらい)
凛真の家でままごとをしてる。
りま(まま役)「ままいまからごはんつくるよ!」
あやと(こども役)「つくる?」
りま「きょうはカレーにしようかなぁ」
あやと「…ままがつくるの?」
りま「そうだよ」
あやと「コンビニいかないの?」
りま「こんびに?なんで?」「ごはんはままがつくるんだよ!」
え?という顔をして寂しそうに俯くあやと。
あやと「あやとのままはつくらないよ、いつもいないもん…」
ぽかんとした表情で目を丸くするりま(子供故にあまりわかってない)
あやと「ままはあやとのままじゃないのかなぁ」
回想終わり/現在
凛真(あの言い方は子供だったとは言えよくなかったよね、ご飯はママが作るもの!ってそうじゃない家だってあるのにそれが普通って思ってたから…)(よくうちにも遊びに来てたけど、私はその意味がよくわかってなくて彩人と遊べてうれしいぐらいにしか思ってなくて…傷付けてた、彩人のこと)
まだ楽しそうに話してる2人を見て。
凛真(最近はお母さんと上手くやってるぽいよね?)(今はいい感じだし、よかった)
彩人母「(空になったコップを置いて)そろそろ帰ろうかな」
彩人「もう帰んの?」
彩人母「うん、今から予定あるからそろそろ~…」
と、スマホ確認する。
彩人「そっか…」
しゅんっと寂しそうな顔をしたことに気付いた凛真、やばいと思ってドキッとする。
凛真(彩人さみしそうな顔した…わかりやすくそんな顔した、やっぱり彩人は…)
はいっと手を上げる。
凛真「彩人これからミスタコンに出るんです!」
彩人「え、凛真?」
凛真「だから…」
凛真「見ていきませんか!?」
凛真(今、彩人の気持ちを汲み取った)(たぶん彩人は言いたかったと思うの、でも彩人は言えないから…)
凛真、彩人母の方をまっすぐ見る。
凛真(きっともう少し一緒にいたいって思った)
彩人母「じゃあ見て行こうかな」
テーブルに両肘をついて手を組み、その上に顔を乗せてにこっと笑う。
彩人「いいよ、恥ずかしいし」
彩人母「え~、すっごくおもしろそうじゃん」
彩人「別におもしろくないよ」
※まんざらでもなような表情
彩人母「彩人選ばれたんだ?さすがあたしの息子!」
嬉しそうに彩人の頭をわさわさと撫でる。
彩人母「カッコよく生んでやったんだから感謝してよね!」
凛真(…これでよかったよね?彩人がうれしかったら私もうれしいし)
窓からひょこっと顔を出したクラスメイト呼びに来る。
女子「佐野ちゃん!先生が探してたんだけど幼稚園の子たちもう来たんだって!」
凛真「(立ち上がる)え、嘘!?まだ時間…っ」
女子「ちょっと早まったっぽいよ、だから来てほしいって言ってた」
凛真「ありがとう!すぐ行くよ!」
彩人「俺も行くよ」
立ち上がる。
凛真「彩人はいいよ、私1人で出来るし彩人はお母さんといて」
彩人「俺も係だから」
凛真「でも…」
ちらっと彩人母の方を見る、申し訳なさそうにして。それににこっと笑って返す彩人母。
彩人母「いいよ、あたしテキトーにブラブラしてるから。ミスタコン楽しみにしてる」
凛真「(ぺこりと頭を下げて)ごめんなさい!」
彩人「凛真行くよ」
凛真「う、うんっ」
教室(喫茶店)をバタバタと慌ただしく出ていく2人。
〇学校/校門前
エプロンを着けた凛真がお手製のフラッグを振っている。数十人の子供たちと幼稚園の先生、他にも文化祭実行委員。
外にも模擬店が出ているため人は多く賑わっている。
凛真「みなさん今日はありがとうございました!」「楽しかったですか~??」
幼稚園たち「「「「「はぁーい」」」」」
案内が終わって、係の仕事が終わる。園児たちにばいばーいと手を振って見送る凛真と彩人。
凛真「彩人ごめんね!もういいよ!」
エプロンを外すしてダンボールの中に入れる。他にもお手製フラッグや法被が入っている。
凛真「あとはこれ返しに行くだけだから彩人はお母さんのとこ戻って」
彩人「いいよ、俺も運ぶから」
スッと凛真から奪うようにダンボールを持ち上げる。
凛真「えっ、いいよいいよ!そんな重くないし私1人で大丈夫だからっ」
彩人「いい、行かない」
スタスタと歩き出す、足早に歩いていく彩人を小走りで追いかける。
凛真「彩人!」
彩人「まだ一緒に回れてないから一緒にどっか行こうよ」「あ、チュロス食べる?いろんな味あっておいしそうだったよね」
凛真「彩人待って」
歩くのが早くてなかなか追いつけない。
凛真「待ってよ!」
彩人「ねぇ凛真は俺とチュロスどっちが好き?」
ピタッと足を止めて振り返る、力のこもった瞳。
彩人「なんてね」※にこっと笑って
凛真「…。」
彩人「俺はチュロス好きだよ~、特に砂糖のやつ!おしいいよね!」
また前を向いて歩き出す、凛真に背を向けて。
凛真「彩人?」
彩人「行かないから」
彩人「ここにいる」
顔だけ振り向く。
彩人「だから凛真もここにいて」
凛真「彩人…」
瞳が潤み始め少しだけ俯く、下ろした手をグーにしてぎゅっと力を入れる。
凛真「彩人はさ…、私とお母さんどっちが好きなの?」
彩人のアップ、ハッとしたような顔。
凛真「せっかくお母さん来てるなら一緒にいなよ」
凛真、瞳にいっぱい涙を溜めて。
凛真「変なことじゃないと思うの、ちょっと恥ずかしい…とかあるかもしれないけど誰も責めたりしない、“今”一緒にいられるならいた方がいいよ!」
凛真(きっといっぱいさみしい思いをしたから、子供の頃さみしかった思いを今満たしてくれるなら…私は彩人に笑っててほしいの)
凛真「だからねっ」
※顔を上げる
彩人「俺は凛真が好き」
凛真「…っ」
彩人「凛真が好きだから一緒にいたい」
向き合う2人、引きの画面。しんっとした空気感。
凛真「違うよ…」
涙をこぼして俯く。
彩人「違わなくないよ」「俺が言ってるんだからそうだよ!何が違うんだよ!?」
凛真(……。)
凛真「…彩人大丈夫だよ、彩人はもう1人じゃないから」
彩人「?」「何言ってんだよ!?全然意味わかんねぇーよ!」
凛真(こんなこと言っちゃいけない、わかってる。言ったらまた彩人を傷付ける、わかってるんだけど…)
彩人「凛真といたいって言っちゃいけないの!?」「凛真がいいんだよ!凛真だからっ」
凛真(でも止められないのー…)
凛真「そうやってお母さんと私を重ねてるんでしょ!?」
しーんとする、彩人も何も言えなくなる。
凛真「…だから彩人が好きなのは私じゃないよ」
居ても立っても居られなくなり走り出す。
凛真「ごめんね…っ」
彩人に背を向けて、ポロポロと涙をこぼしながらとにかく走る。
凛真(きっと彩人は言えない)(言いたくても言えない。ずっと蓋をしてきたから、お母さんに言えないの)
凛真(だから私に言うんだよね、私には言えるから…)(ただ不安で、ただ怖くて、誰かいることを確認するみたいに)
凛真の思い出し/
彩人「俺とチュロスどっちが好き?」
※笑った顔で
凛真(本当はお母さんに言えなかったことを私に言ってるだけなのー…)
凛真思い出し/
彩人「いかないで、凛真」
凛真(だから簡単に私に好きだなんて言えるんだよ)(やめてよ、私勘違いしちゃうから)
凛真(勘違いさせないでよー…!)
泣きながら走っていく凛真の後ろ姿。
凛真のことを後ろから抱きしめてる彩人。ドキドキ静かに心臓が音を出している。
前回の思い出し『俺を凛真のものにしてー…?』
凛真「彩人っ」
―ガラッ
ドアが開いてドキッとする凛真、全く動じない彩人。
心平「あ、悪い」「お取込み中だった?」
彩人「(睨む)お取込みちゅっ」
凛真「全然!大丈夫!」
バッと離れて、必死に話す凛真。
凛真「心平くんどうかしたの?怪我!?」
心平「ううん、サノリマ探しててさっき保健室行ったって聞いて」
凛真「え、ごめんね!何の用だった!?」
彩人から遠ざかって心平の方へ。
心平「…サノリマ大丈夫?」
凛真「うん、全然大丈夫だよ!」
心平「そ?」
凛真「うん…?」
意味深な心平の言い方が引っかかる。
心平「で、ちなみに探してるのは俺じゃなくて樹音ね!教室にいる!」
凛真「ほんと!?なんかあったのかな?」「私ちょっと行ってくるね!」
バタバタと保健室から駆けてく。
彩人と心平だけになる保健室。
彩人「…何?タイミング見計らったように」
心平「別に?偶然じゃね?」
彩人「(睨みつけて)わざと?」
心平「(同じく睨み返して)だったら?」
少し目を大きくする彩人。
対立する2人、これ以上は何も言わないまましんっとする保健室。
〇学校/教室
凛真モノ『お日柄もよい本日は、晴天に恵まれ気分も好調でございます!』『さぁさぁ!本日は文化祭のはじまりはじまり~!!』
折り紙や画用紙で飾った教室の中はドレスやチャイナ服を着て写真を楽しむ人々、その裏でてんやわんや忙しそうな様子。
女子「佐野ちゃんっ、衣装足りないって言うんだけど!?」
凛真「そっちにまだあるよ!」
男子「佐野!背景のカーテンない!!」
凛真「ここに!今持っ」
彩人「俺持ってく」
ダンボールの中、詰め込まれていたカーテンを取ろうとして彩人が代わりに持ってくれる。
凛真「彩人…!ありがっ」
彩人「カーテンって言ったやつ誰?取りに来いよ」
凛真「って彩人が持って行ってくれるんじゃないんだ!?」
取りに来させる彩人を見て。
凛真(今日はいつになくやる気だなぁ…)
凛真の代わりに彩人が動く、誰も凛真に近付けさせないように。
凛真(動きが機敏だ)
凛真「……。」
凛真(ただやる気なだけならいいけど)
女子「持田くん衣装着てくれる!?お客さん待ってるから」
彩人「(嫌そう)……。」
凛真「彩人…、隣更衣室になってるから」
彩人「じゃあ凛真も来て」
凛真「無理だよ!着替えだもん!」
彩人「俺はいいよ」
凛真「私がよくないの!」「ほら早く行って!みんな待ってるから!」
ぐいぐいと背中を押されながら不服そうに教室を出て行こうとする彩人。
振り返ってぐっと瞳に力を入れて心平の方を見る。
彩人「いい、凛真?絶対誰も半径10メートル以内に近付けさせないようにね!!」
凛真「なんで!?」「無謀すぎだし!」
シュンッと走って隣の教室へ向かう彩人を見送る。
凛真(…?なんかあった??)
それをちょっと離れていたところで見ていた心平、樹音。
心平「(困り顔)……。」
樹音「彩人に何かした?」
心平「…ちょっと触発しすぎた」
樹音「は?」
〇学校/教室
彩人、王子様衣装に着替えて戻って来る。キャーキャー言いながら女子たちが取り囲み写真撮り放題。
女子「一緒に撮ってくださぁーい!」
彩人「一緒の撮影はお断りします」
女子「「「え~っ」」」
営業スマイルばりの笑顔で、ポーズ決める。
彩人「俺の隣に並べると思ってんの?」
女子「「「キャーーーーッ♡♡」」」
パシャパシャパシャ、と写真を撮る音。
凛真(だから自分で言わないんだってば)※呆れ顔
樹音(ドレス着用中)「凛真!」
凛真「あ、樹音。どうしたの?」
樹音「本当に着なくていいの?本当は着たいんじゃないの?」
凛真「私は…」「私はいいよ、似合わないし」
一瞬考えて、笑って見せる。
樹音「でも…」
凛真「いいのいいの!それより大盛況でうれしいね!」
樹音「ね!クラス企画優勝狙えるかな~!?」「まぁこれもあれもすべては彩人次第、って感じだけど」
女子たちに取り囲まれる彩人の方を見る、少し複雑そうな顔を浮かべる凛真。
〇学校/廊下
文化祭に遊びに来てる人で賑わってる。
呼び込みをしていた凛真ふぅっと息をつく、王子様衣装から制服に戻った彩人来る。
彩人「りーまっ」「お疲れ」
凛真「彩人もお疲れ、大変だったよね」
彩人「凛真、誰かに何かされてない!?触られてない?言われてない?でっかい陽キャに変なことされてない!!?」
凛真「何もないよ!てゆーか誰の話してるの!?」
シャーと猫の威嚇のような表情からいつも通りになる彩人、満足したのかにこっと笑う。
彩人「ねぇ今から休憩だよね?一緒に回ろ?」
凛真、見上げて彩人の顔を見る。
凛真「…うん!」
〇学校/廊下
わいわい賑わう廊下を並んで歩く2人。凛真が持つ文化祭パンフを彩人がのぞき込んで話し合い。
彩人「どこ行く?凛真見たいのある?それか食べたいのとか」
凛真「うーん、迷う…彩人はないの?」
彩人「凛真と一緒ならどこでも(にっこり)♡」
凛真「……。」「じゃあこのカラフルチュロス行きたい!かわいい!」
彩人「いいよ、えっとそれどこかな…あ、別の棟か」「じゃあこっちだな」
廊下を右に曲がる彩人についていく、何か言いたそうな顔で彩人の後ろ姿を見ながら歩いて隣に並ぶ。
凛真「ねぇ彩人」
彩人「ん」
彩人の方を見上げる。
凛真「言うこと1つ聞いてって私何すればいいの?」「あ、チュロスおごろうか!チュロスじゃなくてもいいよ、なんか彩人の好きなもの!」
彩人「(つんとして)いらない、それは俺が決めるの」
凛真「……。」
凛真(何させられるんだろうってちょっと不安だったから先手を打とうと思ったのに)
凛真「…じゃあ何?」
彩人「それはまだ教えなーい♡」
凛真「(不安顔)……。」
凛真「言っとくけどできる範疇だよ!そこちゃんと考えてね!?」「ねぇ彩人わかってる!?」
彩人「…。」「学校1週間ぐらい休むのは平気?(にこっとして)」
凛真「無理だよ!!」
彩人「たった1週間だよ?人生のうちの1週間」
凛真「高校1年生の2学期の1週間!」
彩人「えー、ハワイ行きたかったな~」
凛真「普通に無理だよ!!!」
話しながら賑わう廊下を歩く2人の前にキレイな女の人が現れる。
女「彩人!」
背中まである茶髪ストレートに派手なメイク、Tシャツにシャツ、ミニスカート、サングラス、小さなバッグを持った160センチぐらいの女。
女「来ちゃった」
サングラスを外す。
彩人「母さん…!」
女は彩人の母親。彩人、戸惑う表情で。
彩人「なんで…?」
彩人母「なんでって、この学校って一般参加自由なんでしょ?だから来た」「凛真ちゃんも久しぶり~!」
凛真「お久し…ぶりです」
ぺこっと軽く会釈して、そのまま彩人の方を心配そうに伺うと少し顔がこわばってる。
彩人母「彩人、案内してよ」
彩人「…(凛真の方を見る)。」
凛真「あ、私はいいよ!彩人、お母さん案内してあげて!」
彩人「じゃあ凛真も一緒に」
凛真「え、でも私はっ」
彩人「いいよね?」
彩人母「あたしはいいよ、凛真ちゃんともしゃべりたいし」
凛真「じゃあ…、少しだけ」
〇学校/教室(他クラス企画喫茶店)
4つの机をくっつけて上からテーブルクロスがかけてある。凛真の隣には彩人、彩人の前に彩人母が座っている。テーブルにはクッキーと飲み物が置いてある。
彩人母「ここの文化祭すごいね、お店いっぱい出てるじゃん」
彩人「だから結構人も来てるよ」
彩人母「パンフも何ページもあるもんね!見てるだけで楽しい~!」
彩人「母さん何か気になるのあった?」
彩人母「あのねぇこのクール&キュート写真館っていう」
彩人「あ、それはいいや」
凛真「……。」
凛真(彩人楽しそうだな)
ストローでオレンジジュースを飲みながら2人の話す様子を見ている。
凛真(大丈夫かなーって思ったけど、むしろお母さん来てうれしそうだしいらない心配だったかも)
笑いながら母親と楽しそうに話してる姿見て。
ずっと2人だけで話してる、会話弾んでる。
凛真(急だったからちょっと緊張してたのかなぁ)(いつもより声高いし)
彩人母「ちょっとこれ見てよ、こないだ撮ったんだけどねほらこの写真〜!」
彩人「何それどーなってんの?」
キャッキャ笑い合ってる。
凛真(笑い声が飛び上がってる…!)
凛真「……。」
ゆっくりコップをテーブルに置く。
凛真(…でもそうだよね、昔はあんまり一緒にいられなかったからうれしいよねきっと)(昔はあんまりいられなかったもんね…)
凛真の回想/過去(5歳くらい)
凛真の家でままごとをしてる。
りま(まま役)「ままいまからごはんつくるよ!」
あやと(こども役)「つくる?」
りま「きょうはカレーにしようかなぁ」
あやと「…ままがつくるの?」
りま「そうだよ」
あやと「コンビニいかないの?」
りま「こんびに?なんで?」「ごはんはままがつくるんだよ!」
え?という顔をして寂しそうに俯くあやと。
あやと「あやとのままはつくらないよ、いつもいないもん…」
ぽかんとした表情で目を丸くするりま(子供故にあまりわかってない)
あやと「ままはあやとのままじゃないのかなぁ」
回想終わり/現在
凛真(あの言い方は子供だったとは言えよくなかったよね、ご飯はママが作るもの!ってそうじゃない家だってあるのにそれが普通って思ってたから…)(よくうちにも遊びに来てたけど、私はその意味がよくわかってなくて彩人と遊べてうれしいぐらいにしか思ってなくて…傷付けてた、彩人のこと)
まだ楽しそうに話してる2人を見て。
凛真(最近はお母さんと上手くやってるぽいよね?)(今はいい感じだし、よかった)
彩人母「(空になったコップを置いて)そろそろ帰ろうかな」
彩人「もう帰んの?」
彩人母「うん、今から予定あるからそろそろ~…」
と、スマホ確認する。
彩人「そっか…」
しゅんっと寂しそうな顔をしたことに気付いた凛真、やばいと思ってドキッとする。
凛真(彩人さみしそうな顔した…わかりやすくそんな顔した、やっぱり彩人は…)
はいっと手を上げる。
凛真「彩人これからミスタコンに出るんです!」
彩人「え、凛真?」
凛真「だから…」
凛真「見ていきませんか!?」
凛真(今、彩人の気持ちを汲み取った)(たぶん彩人は言いたかったと思うの、でも彩人は言えないから…)
凛真、彩人母の方をまっすぐ見る。
凛真(きっともう少し一緒にいたいって思った)
彩人母「じゃあ見て行こうかな」
テーブルに両肘をついて手を組み、その上に顔を乗せてにこっと笑う。
彩人「いいよ、恥ずかしいし」
彩人母「え~、すっごくおもしろそうじゃん」
彩人「別におもしろくないよ」
※まんざらでもなような表情
彩人母「彩人選ばれたんだ?さすがあたしの息子!」
嬉しそうに彩人の頭をわさわさと撫でる。
彩人母「カッコよく生んでやったんだから感謝してよね!」
凛真(…これでよかったよね?彩人がうれしかったら私もうれしいし)
窓からひょこっと顔を出したクラスメイト呼びに来る。
女子「佐野ちゃん!先生が探してたんだけど幼稚園の子たちもう来たんだって!」
凛真「(立ち上がる)え、嘘!?まだ時間…っ」
女子「ちょっと早まったっぽいよ、だから来てほしいって言ってた」
凛真「ありがとう!すぐ行くよ!」
彩人「俺も行くよ」
立ち上がる。
凛真「彩人はいいよ、私1人で出来るし彩人はお母さんといて」
彩人「俺も係だから」
凛真「でも…」
ちらっと彩人母の方を見る、申し訳なさそうにして。それににこっと笑って返す彩人母。
彩人母「いいよ、あたしテキトーにブラブラしてるから。ミスタコン楽しみにしてる」
凛真「(ぺこりと頭を下げて)ごめんなさい!」
彩人「凛真行くよ」
凛真「う、うんっ」
教室(喫茶店)をバタバタと慌ただしく出ていく2人。
〇学校/校門前
エプロンを着けた凛真がお手製のフラッグを振っている。数十人の子供たちと幼稚園の先生、他にも文化祭実行委員。
外にも模擬店が出ているため人は多く賑わっている。
凛真「みなさん今日はありがとうございました!」「楽しかったですか~??」
幼稚園たち「「「「「はぁーい」」」」」
案内が終わって、係の仕事が終わる。園児たちにばいばーいと手を振って見送る凛真と彩人。
凛真「彩人ごめんね!もういいよ!」
エプロンを外すしてダンボールの中に入れる。他にもお手製フラッグや法被が入っている。
凛真「あとはこれ返しに行くだけだから彩人はお母さんのとこ戻って」
彩人「いいよ、俺も運ぶから」
スッと凛真から奪うようにダンボールを持ち上げる。
凛真「えっ、いいよいいよ!そんな重くないし私1人で大丈夫だからっ」
彩人「いい、行かない」
スタスタと歩き出す、足早に歩いていく彩人を小走りで追いかける。
凛真「彩人!」
彩人「まだ一緒に回れてないから一緒にどっか行こうよ」「あ、チュロス食べる?いろんな味あっておいしそうだったよね」
凛真「彩人待って」
歩くのが早くてなかなか追いつけない。
凛真「待ってよ!」
彩人「ねぇ凛真は俺とチュロスどっちが好き?」
ピタッと足を止めて振り返る、力のこもった瞳。
彩人「なんてね」※にこっと笑って
凛真「…。」
彩人「俺はチュロス好きだよ~、特に砂糖のやつ!おしいいよね!」
また前を向いて歩き出す、凛真に背を向けて。
凛真「彩人?」
彩人「行かないから」
彩人「ここにいる」
顔だけ振り向く。
彩人「だから凛真もここにいて」
凛真「彩人…」
瞳が潤み始め少しだけ俯く、下ろした手をグーにしてぎゅっと力を入れる。
凛真「彩人はさ…、私とお母さんどっちが好きなの?」
彩人のアップ、ハッとしたような顔。
凛真「せっかくお母さん来てるなら一緒にいなよ」
凛真、瞳にいっぱい涙を溜めて。
凛真「変なことじゃないと思うの、ちょっと恥ずかしい…とかあるかもしれないけど誰も責めたりしない、“今”一緒にいられるならいた方がいいよ!」
凛真(きっといっぱいさみしい思いをしたから、子供の頃さみしかった思いを今満たしてくれるなら…私は彩人に笑っててほしいの)
凛真「だからねっ」
※顔を上げる
彩人「俺は凛真が好き」
凛真「…っ」
彩人「凛真が好きだから一緒にいたい」
向き合う2人、引きの画面。しんっとした空気感。
凛真「違うよ…」
涙をこぼして俯く。
彩人「違わなくないよ」「俺が言ってるんだからそうだよ!何が違うんだよ!?」
凛真(……。)
凛真「…彩人大丈夫だよ、彩人はもう1人じゃないから」
彩人「?」「何言ってんだよ!?全然意味わかんねぇーよ!」
凛真(こんなこと言っちゃいけない、わかってる。言ったらまた彩人を傷付ける、わかってるんだけど…)
彩人「凛真といたいって言っちゃいけないの!?」「凛真がいいんだよ!凛真だからっ」
凛真(でも止められないのー…)
凛真「そうやってお母さんと私を重ねてるんでしょ!?」
しーんとする、彩人も何も言えなくなる。
凛真「…だから彩人が好きなのは私じゃないよ」
居ても立っても居られなくなり走り出す。
凛真「ごめんね…っ」
彩人に背を向けて、ポロポロと涙をこぼしながらとにかく走る。
凛真(きっと彩人は言えない)(言いたくても言えない。ずっと蓋をしてきたから、お母さんに言えないの)
凛真(だから私に言うんだよね、私には言えるから…)(ただ不安で、ただ怖くて、誰かいることを確認するみたいに)
凛真の思い出し/
彩人「俺とチュロスどっちが好き?」
※笑った顔で
凛真(本当はお母さんに言えなかったことを私に言ってるだけなのー…)
凛真思い出し/
彩人「いかないで、凛真」
凛真(だから簡単に私に好きだなんて言えるんだよ)(やめてよ、私勘違いしちゃうから)
凛真(勘違いさせないでよー…!)
泣きながら走っていく凛真の後ろ姿。



