それから数か月後――。
 春の陽射しがビル街を柔らかく照らし、街路樹の新緑が揺れていた。

 出勤途中、私は拓也と並んで歩いていた。
 かつてはすれ違うだけで胸が苦しかった道も、今は彼と肩を並べて歩く場所になっている。

「今日は午後から外回りだ。終わったら一緒に食事に行こう」
「……お仕事、忙しいんじゃ」
「お前との時間を削るくらいなら、仕事を減らす」

 さらりと告げるその言葉に、思わず笑ってしまう。
 冷徹だと思っていた彼の横顔が、今ではこんなにも優しい。

 会社のエントランスに着くと、颯真の姿が見えた。
 彼は一瞬だけこちらを見て、軽く手を振った。
 以前のような無邪気な笑顔の裏に、ほんの少しの寂しさが残っている気がする。
 けれどその瞳は、どこか吹っ切れたように澄んでいた。

「……颯真には、ちゃんと感謝しなきゃね」
「そうだな。あいつが支えてくれたから、お前が今ここにいる」

 拓也の声に頷きながら、私は隣に立つ彼の手をそっと握った。
 彼は驚いたように目を見開き、次いで優しく握り返してくれる。

「これからも、隣にいてくれるな」
「……はい」

 言葉は短くても、その約束は揺るがない。
 都会の雑踏の中で交わされた小さな誓いが、私にとって何よりも大切だった。

 ビル街の高い窓から差し込む朝日が、二人の影を長く伸ばしていく。
 その影はもう、決してすれ違うことはなかった。