その夜も残業で遅くなった。
消灯が進むフロアの中を、私は資料を抱えて歩いていた。
静まり返った廊下には、蛍光灯の白い光がぽつりぽつりと灯っている。
角を曲がったとき、不意に声が聞こえた。
「拓也くん、どうしてそんなに冷たいの?」
由梨の声だ。
足を止め、思わず壁の影に身を隠す。
会議室のガラス越しに見えたのは、由梨が拓也の腕にすがるように立っている姿だった。
長い髪を揺らし、潤んだ瞳で彼を見上げている。
「私……拓也くんのこと、ずっと好きだったのよ」
「由梨……」
彼の低い声が聞こえ、胸が締め付けられる。
その表情までは見えない。
でも、由梨に向けられた横顔は、私の知らない秘密を抱えているように見えた。
「ねえ……私じゃダメなの?」
由梨がそっと彼の胸に手を置く。
ガラス越しの光景は、あまりにも親密で。
涙がにじみ、視界が揺れた。
――やっぱり。
拓也にとって特別なのは、私じゃない。
資料を抱きしめる腕に力がこもる。
その場から逃げ出したいのに、足が動かない。
けれど、もうこれ以上見てはいけない。
私は静かに背を向け、廊下を駆け出した。
誰にも気づかれないように。
――胸に広がる痛みを、必死に隠しながら。
消灯が進むフロアの中を、私は資料を抱えて歩いていた。
静まり返った廊下には、蛍光灯の白い光がぽつりぽつりと灯っている。
角を曲がったとき、不意に声が聞こえた。
「拓也くん、どうしてそんなに冷たいの?」
由梨の声だ。
足を止め、思わず壁の影に身を隠す。
会議室のガラス越しに見えたのは、由梨が拓也の腕にすがるように立っている姿だった。
長い髪を揺らし、潤んだ瞳で彼を見上げている。
「私……拓也くんのこと、ずっと好きだったのよ」
「由梨……」
彼の低い声が聞こえ、胸が締め付けられる。
その表情までは見えない。
でも、由梨に向けられた横顔は、私の知らない秘密を抱えているように見えた。
「ねえ……私じゃダメなの?」
由梨がそっと彼の胸に手を置く。
ガラス越しの光景は、あまりにも親密で。
涙がにじみ、視界が揺れた。
――やっぱり。
拓也にとって特別なのは、私じゃない。
資料を抱きしめる腕に力がこもる。
その場から逃げ出したいのに、足が動かない。
けれど、もうこれ以上見てはいけない。
私は静かに背を向け、廊下を駆け出した。
誰にも気づかれないように。
――胸に広がる痛みを、必死に隠しながら。

