廃部寸前な手芸部ですが、ユーレイ部員が助けてくれるようです!?

 白河眞墨(しらかわますみ)先輩。
 
 生徒会総選挙で過去一番の得票率を誇っての当選を果たした、全校生徒の、いや、教職員も含めての期待の星。
 この星は「スター」と呼ぶより、フランス語風に「エトワール」とルビを振った方がぴったりだ。
 
 お人形のような柔和な顔立ちに、きりりとした眉は流行りの2.5次元俳優のメイクを地で行くイケメン。
 立ち居振る舞いは同じ年頃の男子と比べることがおこがましいレベルで洗練されていて、彼が食事をしていればそこがたとえ学食だろうと、五つ星レストランの幻覚が見えるレベルだ。
 
 文武両道なのはもちろん、生徒会長としての仕事にも熱心なことでファンは増え続ける一方だというのに、SNSに上げられたら炎上しそうなブラック校則の撤廃をしてくれたことで、またもや人気が一段と増した。
 天井知らずの人気を誇る、天下無敵の王子様系生徒会長。
 
 そんな彼に覚えられていたなんて……!
 ちょっと舞い上がってしまいそう。
 ううん、もう2センチくらい舞い上がってる。
 
「いつも真面目なきみが歩きスマホなんてらしくないな。どうしたの、何か悩み事?」
 
 その問いかけに、はっと現実がのしかかる。
 そうだ。このままでは白河会長に覚えられていた手芸部部長の肩書きが失われてしまう!
 
「あ、あの。そうなんです。私……」
 
 相談してみようか。
 違う視点での解決方法が見つかるかもしれない。
 
「うん、良かったら話を聞かせて?」
 
 白河会長が優しく微笑んでくる。
 
 うわああ、ちょっと待ってまぶしい!
 だって、ほんとに王子様なんだもの。
 普通の下校風景が18世紀あたりのフランスに飛んでる。
 
 シャンゼリゼ通りなんて見たこともないのに!
 
 何から話そうか、頭の中がこんがらがる。
 落ち着いて。落ち着くのよ美羽。

 まずは手芸部が存続の危機にあることから伝えなきゃ。
 
「じ、実はこのままだと手芸部が廃部になるって顧問の先生に言われて」
 
「廃部か……それは厳しい話だね」
 
 白河会長は眉間に皺を寄せた。
 王子様に自分がそんな表情をさせているかと思うとこちらまで苦しくなる。
 
「撤回してもらうには部員を集めて、文化祭で目に見える形での成果を出さなくちゃいけないんですけど……正直、行き詰まってて」
 
「うーん……つまりは文化祭までの2週間の間に突破口を開かなければいけないわけだ」
 
 さらりと期日まで提示されてうっと言葉に詰まる。
 
 現実って厳しい。
 白河会長は口元を覆って何やら考えてくれているようだ。
 
「……そもそも、他の部活だって兼部で成り立っているところもあるのに、どうしてそんな話が出たんだろう」
 
「さあ……大橋先生は、女テニに専念したいんでしょうけど」
 
「それは私情だろう。そんなことで生徒の課外活動が制限されては問題だ」
 
 うわあ。さすが生徒会長。着眼点が違う。
 問題の成り立ちからひっくり返すつもりみたいだ。
 
 それは確かに心強いのだけれど、もしそれがよその部活に飛び火したら、火元が私ということになってしまう。
 それだけは避けたいなー……なんて、考えてしまう私は小心者だ。
 やっぱり正々堂々とハードルを乗り越えたら、難癖をつけられても打ち返せるような強さが身につくのかなあ。
 
「あ、いた!  白河くーん!」
 
 そこに甲高い声が割り込んできた。
 消失点の向こう側に目を凝らすと、女子が何人か手を振りながら走ってくる。
 
 あ、これはヤバイやつ。
 女の勘、発動。
 
 あの手の声色で駆け寄ってくる女子は、たいてい縄張り意識が強い。
 この場合の縄張りとはもちろん白河会長のこと。
 ぶりっ子ボイスに揺れる巻き髪なんて、お手本すぎて笑えるほど。笑ったらそこで私の平和が消えるけど。
 
 きっと偶然を装って一緒に帰ろうと待って――ううん、張っていたに違いない。
 きっと彼女たちは将来、張り込みの名人として警察官か探偵になれる。
 
 幸い、逆光でもあるし私のことは元から眼中に無いはず。
 ここは三十六計逃げるに如かず、だ!
 
「すみません白河会長わたし用事を思い出したのでっっっ」
 
「え?」
 
 もたもたしてる暇は無い。
 早口で言い切ってぺこりと頭を下げてダッシュする。
 ひとつめの曲がり角へ入り込んでしまえば顔は見られずに済むはずだ。
 
 ダッシュだーーっ!!
 

 普段体育の授業ですらこんなに必死に走ったことはない勢いで角を曲がる。
 ぴたりと塀に寄り添って呼吸を整え、電信柱の影からちらりと来た方角を盗み見た。
 
 あれ、これ私の方が張り込みをする警察官か探偵だな?
 
 そして私の推理通り、白河会長はさっきのぶりっ子巻き髪女子ズに囲まれていた。
 そのうちのひとりは抱きつかんばかりの密着具合だ。
 
「白河くーん、今日は早いね? 生徒会のお仕事ないんだ?」
 
「あ、ああ……」
 
「それならウチらと一緒に帰ろ? たまには息抜きも大事だよー。駅前のカフェ、季節限定のドリンクが人気なんだって」
 
 
 はあああ……これは逃げて正解だった。
 あの場で顔を見られていたらちくちく言葉どころのダメージじゃ済まない。
 助けになってくれようとした白河会長の気持ちはありがたいけれど、余計に悪目立ちはしたくない。
 
 ごめんなさい。そしてありがとうございます……!
 
 私はそっとその場を後にした。