翌日の放課後。職員室はちょっとした騒ぎになった。
「し、東雲さん? その子たちはどなた?」
女テニの指導へ行こうとしていた大橋先生の前にずんずん進んで行った私は、胸を張って書類を3枚差し出した。
「手芸部への入部届け、3名分です」
「へっ?」
大橋先生はラケットを脇に挟むと書類を受け取る。
その内容と、私の後ろに控えている3人を交互に見た先生は、ぱちぱちと瞬きしながら私を見た。
「東雲さん、これは……本当に?」
「ええ。正真正銘、兼部もなし。純粋な手芸部部員です!」
後ろで真神たち3人が力強く頷く。
逆に力が抜けたのか、先生の腕からラケットが落ちてカランカランと派手な音を立てた。
その音に、他の先生たちもこちらを見る。
あ、教頭先生までいるなんて珍しい。
「ええと、きみは……何組だったかな?」
学年主任の田中先生だ。
訝しげに眼鏡をずり上げたり下げたりして真神たちを眺めている。
見覚えがなくて当たり前だ。
彼らは純粋な手芸部部員であると同時に完璧な部外者でもある。
だけど、私は慌てていなかった。
「3人とも私と同じクラスですけど……何か?」
「ええ。俺、春日鹿弥といいます。俺たち、実はずっと手芸に興味があったんですけどなかなか言い出せなくて……東雲さんが声をかけてくれたので、いいキッカケになりました」
そう爽やかに笑って、鹿弥さんは眼鏡のフチを触る。その手首にオレンジと茶色のミサンガが揺れた。
「……ああ、春日か。そうか、そうだったな」
「ええ。こっちは真神志狼に桂計兎。同じく東雲さんと同じクラスですよ」
ね? と鹿弥さんはふたりを見る。
無愛想に腕組みして会釈らしきものを見せる真神の手首には、銀と琥珀色のミサンガ。
そして小さく挙手をした計兎くんの手首にも、同じく白と赤のミサンガが揺れる。
「あ、そう。ま、がんばりなさいな」
「ありがとうございます」
あっさりと興味を失った田中先生に折り目正しく礼をした鹿弥さんは大橋先生が落としたラケットを拾い、グリップの方を差し出した。
「大橋先生はテニス部顧問も兼ねてらっしゃるんですよね。兼部する生徒は部員数にカウントされないのに、顧問は例外だなんて……やっぱり先生って大変ですね」
鹿弥さんのあからさまな皮肉に、背筋に冷たいものが走る。
とんでもないサービスエースだ。
「お気遣い、ありがとう。新生手芸部の活動成果を見せてくれるのは文化祭かしら? 楽しみだわね」
グリップを握った大橋先生はラケットフレームで肩をとんとんと叩いた。
「ええ。うちの部長が提示した条件は覚えていますのでご安心を。その頃には先生も大手を振って手芸部顧問だと吹聴してくださって構いませんので」
ま、まずい。
皮肉どころか喧嘩ふっかけてるようなものだ。
鹿弥さんの足を踏んづけて前に出る。
「そ、それでは入部届は提出しましたので、私たちは部室に戻ります。お時間頂きありがとうございました!」
鹿弥さんの手を引いて職員室を後にする。
少し離れた廊下まで歩いて、ようやくほっと息をついた。
「し、東雲さん? その子たちはどなた?」
女テニの指導へ行こうとしていた大橋先生の前にずんずん進んで行った私は、胸を張って書類を3枚差し出した。
「手芸部への入部届け、3名分です」
「へっ?」
大橋先生はラケットを脇に挟むと書類を受け取る。
その内容と、私の後ろに控えている3人を交互に見た先生は、ぱちぱちと瞬きしながら私を見た。
「東雲さん、これは……本当に?」
「ええ。正真正銘、兼部もなし。純粋な手芸部部員です!」
後ろで真神たち3人が力強く頷く。
逆に力が抜けたのか、先生の腕からラケットが落ちてカランカランと派手な音を立てた。
その音に、他の先生たちもこちらを見る。
あ、教頭先生までいるなんて珍しい。
「ええと、きみは……何組だったかな?」
学年主任の田中先生だ。
訝しげに眼鏡をずり上げたり下げたりして真神たちを眺めている。
見覚えがなくて当たり前だ。
彼らは純粋な手芸部部員であると同時に完璧な部外者でもある。
だけど、私は慌てていなかった。
「3人とも私と同じクラスですけど……何か?」
「ええ。俺、春日鹿弥といいます。俺たち、実はずっと手芸に興味があったんですけどなかなか言い出せなくて……東雲さんが声をかけてくれたので、いいキッカケになりました」
そう爽やかに笑って、鹿弥さんは眼鏡のフチを触る。その手首にオレンジと茶色のミサンガが揺れた。
「……ああ、春日か。そうか、そうだったな」
「ええ。こっちは真神志狼に桂計兎。同じく東雲さんと同じクラスですよ」
ね? と鹿弥さんはふたりを見る。
無愛想に腕組みして会釈らしきものを見せる真神の手首には、銀と琥珀色のミサンガ。
そして小さく挙手をした計兎くんの手首にも、同じく白と赤のミサンガが揺れる。
「あ、そう。ま、がんばりなさいな」
「ありがとうございます」
あっさりと興味を失った田中先生に折り目正しく礼をした鹿弥さんは大橋先生が落としたラケットを拾い、グリップの方を差し出した。
「大橋先生はテニス部顧問も兼ねてらっしゃるんですよね。兼部する生徒は部員数にカウントされないのに、顧問は例外だなんて……やっぱり先生って大変ですね」
鹿弥さんのあからさまな皮肉に、背筋に冷たいものが走る。
とんでもないサービスエースだ。
「お気遣い、ありがとう。新生手芸部の活動成果を見せてくれるのは文化祭かしら? 楽しみだわね」
グリップを握った大橋先生はラケットフレームで肩をとんとんと叩いた。
「ええ。うちの部長が提示した条件は覚えていますのでご安心を。その頃には先生も大手を振って手芸部顧問だと吹聴してくださって構いませんので」
ま、まずい。
皮肉どころか喧嘩ふっかけてるようなものだ。
鹿弥さんの足を踏んづけて前に出る。
「そ、それでは入部届は提出しましたので、私たちは部室に戻ります。お時間頂きありがとうございました!」
鹿弥さんの手を引いて職員室を後にする。
少し離れた廊下まで歩いて、ようやくほっと息をついた。



