天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~

「新大聖女エリカ・クンツァイトの入場!!」

 若々しくみずみずしい新大聖女の登場に、会場内が響めきたつ。

 エリカは逆ハーレム漫画の主人公だけあって、とても可憐だ。ピンク色の髪と瞳は、バラのように華やかである。

 エリカをエスコートするのは私の推しシオン様だ。

(私の推しぃぃぃぃぃ!! 今日も麗しいぃぃぃぃ!!)

 パシャパシャとフラッシュが焚かれ、写真が撮影される。宮廷お抱えのカメラマンがエリカを撮影しているのだ。

(カメラマン! エリカだけじゃなくシオン様も撮って!! そして、その写真、売ってください!!)

 シオン様はエリカとは対照的だった。この国では不吉と忌み嫌われる漆黒の髪を後ろで緩くまとめている。落ち着いて物静かな様子はまるで影のようだ。

カメラマンはあからさまにシオン様の撮影を避けている。

 黒髪が嫌われるのに私は納得できない。前世では美しい黒髪は『カラスの濡れ羽色』と褒めそやされるものだった。逆に私の白髪のほうが、加齢の証明で忌み嫌われていたのだ。私もせっせと抜いていたものだ。

 しかし、この世界では髪の色は心の色と連動しているという迷信があった。暗ければ暗いほど、心が汚いと思われるのだ。特に漆黒は不義の印といわれていた。

(不義――ね。男は愛妾を持つことが許されているのに、女の浮気は許さないとかなに言ってんだか)

 私はしらけてしまう。