天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~


「では、そういうことで、事務処理よろしくお願いいたしますわね」

 私はきびすを返す。

「なんと勝手な! 退職は一ヶ月前までに申し出るのが決まりだ!! 認められん」

 現代日本のような決まりなのは、日本で作られた漫画の世界だからなのだろう。

「使わせてくれなかった有給がたーんと残っているはずですわ。そちらを消化してくださいな」

「そんなことは許さない」

 私はカツンと床を蹴り、長官に向き直った。そして机に置かれていた退職届を奪い取った。

「許さない? ですって? できるものならどうぞ。私はこれを人事に持っていくまでですわ」

 私がニッコリ微笑むと、長官はヒュッと息を呑んだ。

 人事部には私の兄がいるのだ。そして、私の父は国璽尚書で、宮廷内に大いなる発言力を持つ。一応シオン様の所属部署だから顔を出したが、世間知らずの魔導師たちと話をするより、世慣れた文官を相手にしたほうが話は早い。

「やめろ!! そもそも、あんな不吉な黒髪になぜ執着する!」

 私は退職届で長官の頬を軽く叩いた。

「言葉に気をつけたほうがよろしくってよ? シオン様は、この私の婿です。セレスタイト公爵家に連なる者となりました。その意味はわかって?」

 ゴクリと長官が固唾を呑む。

「彼を侮辱することは、我がセレスタイト公爵家を侮辱することと同じです」

 部屋中がシーンと静まりかえった。