「エリカ様、なにをお探しですか?」
「あ、いえ。……大丈夫です。なんでもありません。……お気遣いありがとうございます」
私が礼を言っても、彼女はため息をつくばかりだ。
どうもこれも、王子妃候補者らしからぬ振る舞いだったらしい。
ローレンス殿下のプロポーズを受け、私は未来の王子妃として淑女教育を受けているのだが、あまりにも勝手が違いすぎて疲れ果てていた。
(シオン先生なら、ダメなことと良いことを理論的に指摘してくれたのに……)
王宮の教育係は「普通はわかる」「自分で考えろ」と言うのだ。
(でも、平民だった私にはなにが正解かわからない……)
今も侍女は冷たい視線を向けるだけだ。
(私……、向いていないのかも……)
そう思う瞼には、ローレンス殿下の笑顔がちらつく。



