この先のホールで、ローレンス殿下が待っているはずだ。約束はしてないのだが、ローレンス殿下はいつもそこで待っていてくれる。王子妃教育と聖女の勤めのあいだに会いに来てくれるのだ。
しかし、今日は様子が違った。ローレンス殿下はおらず、貴婦人たちが噂話に花を咲かせていたのだ。
「エリカ様にも困ったものだわね」
「婚約披露パーティーをしても一向に王子妃としての自覚がないわ」
私に対する悪口が聞こえ足を止めた。
悪口を囁いていた貴婦人たちは私に気がつくと、優雅に礼をする。
「エリカ様、ごきげんよう」
和やかな笑顔に明るい声。一瞬前の言葉が嘘のように友好的で、私はゾッとした。
「……ごきげんよう」
私はギクシャクと答え軽く礼をする。
すると、侍女はこれ見よがしにため息をつき、貴婦人たちは鼻で笑った。



