天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~

 婚約式から一ヶ月後。私は王宮での王子妃教育を終え、王宮神殿にある『聖なる花園』に向かっていた。

 窓の外では霧雨が降っている。

 王子妃教育が長引き、すでに時刻は遅れ気味だ。私は小走りで先を急ぐ。侍女は嫌そうな顔をしてついてきていた。

 婚約式以降、ヘリオドール王国は季節外れの長雨に見舞われていた。そのせいもあり、聖花の生育が悪く、花から放たれる神気が減っているのだ。不穏な雰囲気が王国内に漂いはじめ、その矛先は大聖女である私エリカに向かっている。

(……どうしたらいいの? もっと大聖女の務めに時間を割きたいけれど、王子妃教育もしなければならないし……)

 大聖女の勤めと王子妃教育の両立が難しいことは、誰にも知られたくなかった。

(誰かに知られたら、王子妃を辞退しろと言われるかもしれないもの……)

 そうなるのが怖かった。平民出身の自分が王子妃なんて無理だと思う。しかし、ローレンス殿下がほかの妃を娶ることを考えると、身が引き裂かれる思いだ。それならば自分が努力すればいいと思ってきたのだが、さすがに限界を超えそうだ。

(でも、婚約披露もすんだことだし、きっと辞退しろとは言われないはず。こっそりローレンス殿下に両立について相談してみよう)

 長雨が解決するまでは大聖女の勤めを優先してもらい、王子妃教育に余裕を持たせてもらうのだ。