「まぁ、その……いろいろ、不快な思いをさせますし……」
私はゴニョゴニョと歯切れ悪く答えた。
「……私は……それくらい……平気だが……」
シオン様も奥歯に物が挟まったように答える。
(シオン様は優しいのね。私のためにむりやりキスする覚悟をしてくれるんだわ。でも、好きな人にイヤイヤキスさせるなんて、切なすぎる……)
そんな悲しいキスなどいらない。
「無理をなさらないでください。本来、隣に並んでいいのは私ではありませんでしょ?」
「そんな」
否定しようとするシオン様に笑いかけ制する。
「わかっているんです。だから、この話はおしまいにしましょう?」
私はそう言うと、馬車の窓に目を向け、外の風景を眺めるフリをした。実際は、ガラスに映るシオン様をのぞき見る。
シオン様は小さくため息をつくと、私とは反対の窓に目を向けた。



