ユニコーンに横乗りになっているシオン様を両腕で抱え込むようにしながら、夜空を駆ける。

 足元に広がる王宮の明かりがだんだんと小さくなっていく。

 ぼんやりと眼下を見つめるシオン様の横顔が儚げで美しく、私はウットリとしながら、前世で読んでいた縦読み漫画『大聖女エリカの花占い』を思い出していた。


『大聖女エリカの花占い』は、両親に先立たれた平民の少女エリカが主人公のシンデレラストーリーだ。身寄りのなくなったエリカは、近所の中年に襲われそうになる。そこを助けたのがシオン様である。

 シオン様は、下級貴族の三男坊のため貴族の中では地位が低い。そのうえ黒髪で生まれてきたことから、家族からも忌み嫌われてきた。シオン様の生家モーリオン子爵家は、田舎の侯爵家に仕える家系で、家族もみな田舎の領地で暮らしている。しかし、シオン様はひとり王都で下級宮廷魔導師として働いていたのだ。

 黒髪を恐れないエリカに、シオン様は大聖女の資質を垣間見る。シオン様は、愛と優しさ知性でもってヒロインに魔術を教え、新大聖女へと導く初期ヒーローだったのだ。

(縦読み漫画のド定番、黒髪ヒーローだし、絶対にシオン様がメインヒーローだと思って安心して読んでたのに!)

 物語の中盤までは、エリカとシオンの師弟関係とエリカに芽生えるシオンへの初恋、そしてシオンからエリカに向けられる深い愛が描かれている。

 しかし、エリカが新大聖女として頭角を現したころから、物語は変わっていく。不遇の王子ローレンスとエリカが出会い、ローレンスの立身出世物語が絡まるようになってくるのだ。