天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~


 *****


 そうして、今度こそ私は寝台列車での最後の晩は徹夜して過ごした。間違ってもシオン様を襲わないためだ。

 旅行の最終日、寝台列車が王都の駅に滑り込むと、ホームにはたくさんの見物客が集まっていた。私たちがのんびりしているあいだに、豪華寝台列車アスターは有名になっていたようだ。

「すごい人々だな」

 車内からホームを見るシオン様は、呆気にとられている。

 完徹状態の私は頭が上手く回らない。頭はクラクラで、疲弊しきっていた。

「そうですか」

 ボーッとしながら答えつつ、早く自分の寝室でユックリ眠りたいと考えていた。

(魔塔の子供たちはどうしているかしら?)

 帰り道では、シオン様の提案で一緒に魔塔の子供たちにお土産を選んだのだ。

(シオン様そういう心遣いが本当に優しいのよね)

 帰宅後のことを考えつつ、プラットホームに降り立つと、ワッと歓声があがった。

 皆、白地にピンクのハートが描かれたパンフレットを持ち、私たちに向かって振っている。