天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~


 あまりのことに、その場にグズグズと座り込んだ。

「シ、シオン様が……私なんぞのために? 旅行を? は? ……嘘でしょ?」

 意味がわからず、頭の中は混乱している。

 リビングからシオン様の声が響いてくる。

「ルピナ、初夏といえど山の中はまだ寒い。暖炉をつけてくれたそうだ。チーズを温めて夕食にしないか」

 まるで、家族にかけるような言葉が、胸の奥を暖める。

 目尻に熱いなにかがたまって、私はそれを手の甲でキュッと拭き立ち上がる。

「はい!」

 そうして、シオン様のもとに向かって駆けだした。