(それはショックよね……。今夜、シオン様はエリカにプロポーズするつもりだったのだから……)
漫画のサイドストーリーを読んでいた私は知っている。
漫画でのシオン様は、愛を込めて贈った指輪を喜んでつけてくれるエリカを見て、彼女が自分に恋愛感情を抱いていると勘違いしてしまった。エリカにしてみれば、皆に平等に優しくしていただけなのだが、シオン様はそれを愛だと誤解し、プロポーズする決意をするのだ。
(漫画のエリカはなかなか無神経なのよね。シオン様からもらった指輪を外すことなく、隣にローレンス殿下の結婚指輪を嵌めるんだから)
私はなんとも言えない気持ちで遠くを見た。
ざわめくパーティー会場。
いきり立つ、私の父セレスタイト公爵。
国王陛下は茫然とする。カメラマンたちは緊迫の空気を慮ってか、カメラを下ろした。
なにしろ、私とローレンス殿下の婚約は、王家から強引に命じられたものだからだ。末子で継承権の低いローレンス殿下を哀れに思った国王夫妻は、爵位の序列一位であり王国一裕福な公爵家の後ろ盾を与えようと計算された婚約なのだ。
そして、王位継承権の低い者と私を縁づかせ、我がセレスタイト公爵家にこれ以上力を持たせないためでもある。
(だから、私からいくら言っても婚約破棄できなかったのに)
そちらから破棄してくれるのであれば、万々歳だ。



