天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~


「私闘ではない。セレスタイト公爵家ご息女に対する非礼を罰するだけだ」

 そう告げられ、オリバーは私を見た。

「オリバー様は田舎で過ごしているから知らないのかもしれないが、男爵家ごときの者がそのような態度を取って良い相手ではない」

 私は鷹揚に頷いた。

「っな! 俺はお前の兄だぞ!? 兄を見捨て悪妻を選ぶというのか? 金に目がくらん――」

 オリバーの足元めがけ、シオン様が杖を振った。するとつま先にあった石が真っ二つに割れる。

「ひぃ!」

 声をあげたのは従者だ。

「兄? 私に兄などいない。私はモーリオン男爵家の方々から、そのように呼ぶことを許されてはいない。父は私を子と認めず、あなた方は私が兄と呼べば殴った。それなのに、いまさら家族といわれても」

 シオン様は鼻先で笑う。恨みも憎しみもない、諦め突き放した目だ。

 オリバーの指先は震えて力が入らないようだ。手元の新聞は強風に煽られ、夕暮れに飛んでいってしまった。

「シオン……」

 助けを請うような声でシオン様を見るオリバーに、私は微笑みかけた。

「シオン様、よ? 私の婿となったのです。彼は、シオン・セレスタイト。男爵家の令息ごときが呼び捨てできる相手ではなくってよ?」

 ゴォと風が吹く。

 オリバーはその場で膝をついた。