天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~


「ああ、覚えていないのか?」

 シオン様に小首をかしげられ、私は顔が青くなる。容疑者から犯人に格上げである。

(なにをしたのいったい。ねぇ? 私、欲望を抑えきれずにシオン様の花を散らしてしまったの!? もしそうならソレを覚えてないとか、私最低すぎるでしょ?)

 思考が混乱し、なにも思い出せない。言葉を失う。

 そんな私を見てシオン様は盛大に笑い出した。そして、ひとしきり笑ったあと、目尻を指先で拭う。

「ありがとう。ルピナのおかげでよく眠れたよ。他人と一緒に寝るというのは存外悪くないものだな」

 シオン様は優しい瞳で礼を言う。原作では、誰かに礼を言っている姿を見たことはなかった。

(でも、こんな優しそうな顔で笑うのね――)

 私は目を奪われる。

 シオン様は機内誌を畳むと席を立った。