天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~


「では、新大聖女。スピーチを……」

 エリカは促されると、立ち上がりスピーチを始めた。左手の中指には、シオン様からもらった指輪が輝いていた。これは、お守りでもありシオンとの秘密の通信手段でもある魔導具なのだ。揃いの指輪をシオン様も左中指に嵌めている。

 スピーチの内容はシオン様が考えたはずだ。非の打ち所がない。それを小鳥がさえずるような軽やかなソプラノボイスで読み上げる。

「私、エリカ・クンツァイトは王宮神殿の新大聖女として、『聖なる花園』の管理をおこない、ヘリオドール王国の繁栄を願い『花占い』をおこなうことを誓います。そして――」

 貴族たちは心酔するように、エリカのスピーチに聞き入っている。

 ローレンス殿下も頬を赤らめ、ウットリと聞き入っている。

 この世界の大聖女の仕事は、『聖なる花園』に咲く聖花を自らの神聖力で育て、聖花を使った『花占い』で、事前にモンスターの襲撃や、災害などを予知して被害を最小限にするのだ。

(大聖女の力が大きければ大きいほど、力の強い花が咲き乱れ、占いの精度も上がる……)

 聖花はマーガレットに似た形だが、不思議なことに半透明なのだ。注がれる神聖力によって透明度が変わる。純粋であれば純粋であるほど透明に近くなるのだ。

 また、聖花は大聖女の神聖力を増幅させる。その聖花からあふれ出る神気が王国を守護しているのだ。また、花自体も聖水やポーションなどの原料になっている。

(平民出身のエリカは貴族出身の大聖女たちと違い、汚れ仕事に抵抗がないから花を育てるのが上手なのよね)

 スピーチが終わると周囲は拍手が鳴り響く。

 エリカは照れた様子でシオン様に視線を送った。

 シオン様は優しげに頷き返す。そして、エリカの背に手を回し、その場を離れるべく促した。