天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~


 忌々しいと思っていた、自分にとっては呪いのような髪。

(それを彼女はためらいなく触れた――)

『皆を安らぎに導く夜の色です』

 ルピナの声が聞こえる。

 ギュッと心が絞られるように痛い。でも、その痛みはなぜか甘い。

 深い紫色に染められた寝具、ベッドの彫刻は紫苑の花だ。

(すべて、私の名前に由来する。客室をホームの視線と合わないようにしたのも、ルームサービスが充実しているのも、黒髪を厭う私のためなのだろうか?)

 考えすぎかもしれないが、そうだとしたらなぜそこまでしてくれるのかわからない。

(契約結婚というには、あまりにも……待遇が良すぎやしないだろうか)

 私はむくりと起き上がった。