学生時代から、ローレンス殿下の仕事を秘密裏に手伝っていた私は、返事が難しい手紙の代筆なども請け負っており、ルピナがローレンス殿下との婚約破棄を望んでいることは知っていた。だからこそ、彼女を避けていた。なにしろ、ローレンス殿下からルピナ宛ての手紙は、私が代筆していたからだ。気がつかれては困る。
ローレンス殿下の代わりとしてルピナに返事を書くうちに、罪悪感と愛着が芽生え始めたころ、王宮の庭で彼女を見かけた。いつもなら声をかけないのだが、そのときの彼女は挙動不審だった。
まだ十四歳だったルピナだが、王族と面会するとは思えないパンツ姿で、庭園のトピアリーの影からローレンス殿下を隠れ見て聞いたことない呪文を唱えていたのだ。
(今でも忘れない。あのときの呪文『オシハワタシノオシハドコ』)
魔法の知識についてそれなりの自負があった私は、知らない呪文に興味を持った。
しかも、彼女がローレンス殿下に幾度となく婚約破棄を申し入れていることも知っていたから、何かしらの悪意があってはならないと、思わず後ろから声をかけたのだった。
その瞬間、ルピナは奇声をあげて気を失った。きっと黒髪の魔導師が少女には恐ろしかったにちがいない。



