(事実、ルピナに連れさられたあの日までは……)
しかし、ローレンスと離れてからわかったことがある。
(私の人生は閉じられていたのだ)
身寄りの亡くなったエリカを中年男から救い、大切に育ててきたのは私だった。家族代わりのつもりで大事にしていたのだが、なんの相談もなく婚約するという。
たしかに血の繋がりもない私に許可を得る必要はない。しかし、交際していたことさえ気がつかせないほど隠されていた。
(私にとってエリカは妹、ローレンス殿下は親友だったのに、ふたりにとって私はなんだったのだ?)
苦手なパーティーもエリカのために無理をして、誹謗中傷の中で突きつけられた事実。
(しかも、ローレンス殿下は婚約者がいた身ではないか。私に代筆させていた手紙では、臆面なく愛を歌って縋っていたくせに、衆人の面前で破棄して婚約だなんて、反吐が出る)
私は、不義の果てに産まれた子供が、どんな生き方をするのか身をもって知っている。
ローレンス殿下とエリカも私の不遇に憤っていたのに、同じ過ちを平気でするのかと思うと、その言葉すら空しく思える。
(エリカだって、『不義の証しは子供のせいじゃない』と涙ながらに怒ってくれていたはずなのに)
ふたりを見て、気持ち悪いと思ってしまったのだ。
そして、その場から救い出してくれたのはルピナだった。
(しかし、意外だったな。はじめて出会ったとき、私の黒髪を見て恐怖のあまり失神したと聞いていたのだが――)
どうやら、そうではなかったらしい。
私も、公爵令嬢の不興を買うのは得策ではないと、間違っても顔を合わせないようにと配慮してきたのだが、もっと早く出会えていたら良かったかもしれない。



