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 思い出したくない自分の幼少期。私はとある田舎の侯爵家に使えるモーリオン男爵家の末子として生まれた。

 物心ついたときには、家族から憎まれていた。

 家族の誰にも似ていない黒い髪と黒い瞳。それらは、一般的に『不貞』の刻印といわれている。

 事実、私は不貞の末に生まれた子だ。女癖の悪いモーリオン男爵への当てつけのために、母は自分を慕う魔導師を利用し私を身ごもったのだ。

 黒髪の私が生まれた日、母はモーリオン男爵に勝ち誇って『どんなお気持ちですか?』とあざ笑ったらしい。

 その後、私の生物学的父は、モーリオン男爵に捕らえられ殺された。

 以降、母は私を見るたびに罪の意識にさいなまれるようになり、恐れのあまり養育を拒否し、ひとり実家へと帰ってしまった。

 モーリオン男爵は何度も私を殺そうとしたようだが、強い魔力を持って生まれた私のことを殺すことはできなかったのだ。

 私は誕生日になると、その話を繰り返し聞かされた。当然祝われたこともない。

 両親の不仲は、すべて私のせいとされ、兄弟たちからも鼻つまみ者にされた。