大嫌い!って100回言ったら、死ぬほど好きに変わりそうな気持ちに気付いてよ…。

駅へ向かう道は、いつもと同じだった。

同じ歩道、同じ街灯、同じコンビニの明かり。

なのに今夜だけ、全部が違って見える。

朱里は歩きながら、無意識に足元ばかり見ていた。

前を見てしまったら、何かが終わる気がして。

嵩も、普段より少し前を歩いている。

距離が開いたわけじゃない。

でも、並びきれない感覚があった。

「……ここ、前も通ったよね」

朱里が、沈黙に耐えきれず言う。

「うん。何度も」

嵩の声は、穏やかだった。

変わらないようでいて、確実に“変わった後”の声。

横断歩道の前で、信号が赤になる。

二人同時に止まる。

朱里は、赤信号を見つめながら思った。

(このまま青にならなければいいのに)

進みたくないわけじゃない。

でも、進めば一歩、離れる気がした。

「……中谷さん」

名前を呼ばれて、胸が跳ねる。

「さっきの話」 嵩は、言葉を探すように間を置いた。

「答えを急がせるつもりは、本当にない」 「ただ……」

朱里は、息を詰めた。

「帰り道が、これまでと同じじゃなく見えるのが」
「少し、怖い」

その“怖い”が、自分のものと同じだと分かって、

朱里の目が熱くなる。

「……私もです」

声が、夜に溶けそうになる。

「この道、いつも一緒に歩いてたのに」
「今日から、“期限付き”みたいに見える」

言ってしまった瞬間、後悔しかけた。

でも、嵩は否定しなかった。

「……うん」 短く、でも深く頷く。

信号が青に変わる。

渡りながら、朱里は足が重くなるのを感じた。

駅が近づくほど、

“終点”が近づく気がして。

改札の前で、自然と足が止まる。

「じゃあ……」

嵩が言いかけて、言葉を止める。

朱里は、勇気を振り絞って口を開いた。

「……これからも、一緒に帰っていいですか」

答えが怖くて、目は見られない。

「期間限定でも」

「終わりが来るとしても」

一瞬の沈黙。

そして、嵩の声。

「……いいに決まってる」

朱里は、顔を上げる。

「別れ道にしたくない」
「少なくとも……今は」

その言葉に、胸がぎゅっと掴まれる。


「……ありがとうございます」

改札を通る直前、嵩が言った。

「中谷さん」
「この道が、別れ道に見えても」

少し間を置いて。

「俺は、まだ“一緒に歩く道”だと思ってる」

朱里は、頷いた。

言葉にすると壊れそうで、
ただ小さく、確かに。

改札を抜けて、振り返る。

嵩はまだ、そこに立っていた。

手を振る代わりに、軽く頭を下げる。

電車が来る音がする。

ホームへ向かう階段を下りながら、朱里は思った。

(別れ道に見えても)
(ここから、選び直せる)

胸は苦しい。

でも、逃げていない。

それだけで、この夜は前に進んでいた。