朝、校舎に入ろうとしたところで一ノ瀬に呼び止められた。


「おはよう、柊。あのさ」

「……はよ」

「時間、くれ。あと26日なんだ」

「話して、どうするの」

「どうって、それは」

「……私、またメイサちゃんとか女マネに絡まれなきゃダメなの?」

「何言ってんだ、柊。……それ、昨日双葉が言ってたことに、関係あんの?」


 口を開く前にチャイムが鳴る。

 もうすぐ、朝のホームルームが始まる。


「……一ノ瀬は、26日後に、何がしたいの?」

「それ、最初に言っただろ。俺は柊莉子に告白する」

「なんで? なにを?」

「は……? ちょ、柊、なんで泣いて……」


 顔をカバンで隠して走る。

 トイレで見た私の顔はひどい有様で、どうしようもなくて保健室に逃げ込んだ。


「あら、どうしたの、そんなに泣いて」

「すみません……自分でもわかんなくて……」

「青春ねー。どうする? 帰る?」

「そ、そんな簡単に帰っていいんですか……?」

「1日くらいサボったって困んないわよ。困らないように、自分で取り返すならね」


 ……そっか。帰っても、いいんだ。

 少し迷ってからスマホを取り出す。

 電話したら、お兄ちゃんはすぐに出てくれたから事情を説明する。


「兄が迎えに来てくれるので、帰ります」

「はいはい。じゃあ、この早退届書いて。体調不良に丸しときな」


 保健室の先生はあっさり見送ってくれた。

 校門で落ち合ったお兄ちゃんが、呆れ顔でヘルメットを放ってきた。


「アイスおごれよ。バカ妹」

「うん。コンビニ行こう。私もアイス食べたい。ありがとう、お兄ちゃん」

「いいよ。必要だったんだろ」


 ……そうかもね。

 でも、そろそろ逃げ回るのもおしまいにしようかな。

 きっと、コンビニに着くころには、涙も乾くと思うから。