六月二日、駅前広場は人通りが多く、宣伝にはうってつけの場所だった。春馬たちは前日遅くまでかかってポスターを印刷し、チラシを数百枚用意していた。
「これで集客ばっちりだね」愛理が明るい声を出した。
勇希はメガホンを肩にかけて笑う。
「今日は気合い入れていこうぜ!」
午前十時、宣伝が始まった。
「旭ヶ丘中学校、最後の文化祭です! みなさん、ぜひ来てください!」
勇希の声が広場に響き渡る。しおりと恭子はチラシを配り、春馬はポスターを掲げて歩き回った。
しかし、風が強くなり始めた。
「ちょっと嫌な感じだな……」雅史が空を見上げる。
春馬がポスターを持ち直した瞬間、突風が吹いた。
「うわっ!」
数枚のポスターが一気に舞い上がり、広場の端へと飛ばされていった。慌てて追いかけたが、風に煽られて人混みの中に消えてしまった。
さらに追い打ちをかけるように、マイクの電池が切れた。勇希が声を張り上げても、通行人は足を止めてくれない。
「なんでこんな日に限って……」春馬は膝に手をつき、息を吐いた。
昼過ぎにはチラシの大半が配りきれず残っていた。集客はゼロ。みんなの表情が曇る。
「……ごめん」春馬が呟いた。「もっと準備しておけば……」
愛理はそんな春馬の肩を叩いた。
「泣いてもいいよ。でも泣いたら次に進もう」
夕方、学校に戻った春馬たちは美術室で無言のまま椅子に座っていた。チラシの束が机の上に無造作に置かれたままになっている。
「結局、一人も呼び込めなかったね……」愛理がぽつりと言った。
「俺のメガホンのチェック不足だな」勇希が悔しそうに唇を噛む。
しおりも肩を落としたままだった。
「風対策もしてなかった。私も見落としてた」
春馬は机に肘をつき、顔を伏せた。
「俺がもっと早く計画してれば……」
その声はかすかに震えていた。
愛理が立ち上がり、春馬の前にしゃがみ込んだ。
「春馬くん。今日のことはもう終わったよ。次にどうするか考えよう」
「……でも、みんなに迷惑かけて」
「迷惑じゃない。みんな一緒にやってるんだから」
しおりが口を開いた。
「このままじゃ終われないわね。明日からはSNS……じゃなくて、学校内放送と掲示板を使いましょう」
「それだ」勇希が拳を打ち合わせる。「駅前での宣伝はダメでも、学校内なら確実に届く」
春馬は顔を上げ、仲間の顔を見渡した。失敗したのは自分だけじゃない。みんなで転んで、みんなで立ち上がろうとしている。
「……ありがとう。次は必ず成功させよう」
六月三日、春馬は校内放送室に立っていた。しおりが原稿を手にして言った。
「駅前での失敗はもう終わったこと。今日からは確実に届ける」
勇希がマイクのスイッチを入れる。
「旭ヶ丘中学校の皆さん、最後の文化祭がもうすぐ始まります!」
放送が校内に響き渡り、生徒たちが振り返るのが見えた。愛理は職員室の掲示板にポスターを貼り、恭子は図書室前でチラシを配った。
休憩時間、春馬はふと立ち止まり、仲間の姿を見渡した。
——昨日の失敗は無駄じゃなかった。立ち上がるきっかけになったんだ。
午後、美術室に戻ったとき、しおりが笑った。
「これで最低限は呼び込めるはず。あとは作品の完成度だね」
「うん。よし、描こう!」春馬は声を張った。
筆を動かしながら、春馬は心の中で昨日の自分に語りかけていた。
——泣く時間があるなら、次に進め。そう言ってくれたのは愛理だったな。
胸の奥で小さな決意が芽生えていた。
窓の外では夕日が差し込み、壁画の青灰色が赤く染まっていた。失敗はまだ終わりじゃない。むしろこれからだと、春馬はようやく笑えた。
「これで集客ばっちりだね」愛理が明るい声を出した。
勇希はメガホンを肩にかけて笑う。
「今日は気合い入れていこうぜ!」
午前十時、宣伝が始まった。
「旭ヶ丘中学校、最後の文化祭です! みなさん、ぜひ来てください!」
勇希の声が広場に響き渡る。しおりと恭子はチラシを配り、春馬はポスターを掲げて歩き回った。
しかし、風が強くなり始めた。
「ちょっと嫌な感じだな……」雅史が空を見上げる。
春馬がポスターを持ち直した瞬間、突風が吹いた。
「うわっ!」
数枚のポスターが一気に舞い上がり、広場の端へと飛ばされていった。慌てて追いかけたが、風に煽られて人混みの中に消えてしまった。
さらに追い打ちをかけるように、マイクの電池が切れた。勇希が声を張り上げても、通行人は足を止めてくれない。
「なんでこんな日に限って……」春馬は膝に手をつき、息を吐いた。
昼過ぎにはチラシの大半が配りきれず残っていた。集客はゼロ。みんなの表情が曇る。
「……ごめん」春馬が呟いた。「もっと準備しておけば……」
愛理はそんな春馬の肩を叩いた。
「泣いてもいいよ。でも泣いたら次に進もう」
夕方、学校に戻った春馬たちは美術室で無言のまま椅子に座っていた。チラシの束が机の上に無造作に置かれたままになっている。
「結局、一人も呼び込めなかったね……」愛理がぽつりと言った。
「俺のメガホンのチェック不足だな」勇希が悔しそうに唇を噛む。
しおりも肩を落としたままだった。
「風対策もしてなかった。私も見落としてた」
春馬は机に肘をつき、顔を伏せた。
「俺がもっと早く計画してれば……」
その声はかすかに震えていた。
愛理が立ち上がり、春馬の前にしゃがみ込んだ。
「春馬くん。今日のことはもう終わったよ。次にどうするか考えよう」
「……でも、みんなに迷惑かけて」
「迷惑じゃない。みんな一緒にやってるんだから」
しおりが口を開いた。
「このままじゃ終われないわね。明日からはSNS……じゃなくて、学校内放送と掲示板を使いましょう」
「それだ」勇希が拳を打ち合わせる。「駅前での宣伝はダメでも、学校内なら確実に届く」
春馬は顔を上げ、仲間の顔を見渡した。失敗したのは自分だけじゃない。みんなで転んで、みんなで立ち上がろうとしている。
「……ありがとう。次は必ず成功させよう」
六月三日、春馬は校内放送室に立っていた。しおりが原稿を手にして言った。
「駅前での失敗はもう終わったこと。今日からは確実に届ける」
勇希がマイクのスイッチを入れる。
「旭ヶ丘中学校の皆さん、最後の文化祭がもうすぐ始まります!」
放送が校内に響き渡り、生徒たちが振り返るのが見えた。愛理は職員室の掲示板にポスターを貼り、恭子は図書室前でチラシを配った。
休憩時間、春馬はふと立ち止まり、仲間の姿を見渡した。
——昨日の失敗は無駄じゃなかった。立ち上がるきっかけになったんだ。
午後、美術室に戻ったとき、しおりが笑った。
「これで最低限は呼び込めるはず。あとは作品の完成度だね」
「うん。よし、描こう!」春馬は声を張った。
筆を動かしながら、春馬は心の中で昨日の自分に語りかけていた。
——泣く時間があるなら、次に進め。そう言ってくれたのは愛理だったな。
胸の奥で小さな決意が芽生えていた。
窓の外では夕日が差し込み、壁画の青灰色が赤く染まっていた。失敗はまだ終わりじゃない。むしろこれからだと、春馬はようやく笑えた。



