九月十二日。
集中治療室の静かな朝。成美はまだ目を閉じたままだったが、心電図のリズムは安定していた。
岳は窓際の椅子に座り、ブレスレットを握りしめていた。(もう一度……笑ってくれ)
医師がそっと言った。
「意識が戻りかけています。声をかけてみてください」
岳は立ち上がり、成美の耳元でささやいた。
「成美、起きて。……朝日、まだ一緒に見てないだろ」
まぶたがわずかに震え、成美が小さくまばたきをした。
その瞬間、岳は思わず手を握った。「ありがとう……」
太陽と真菜、哲平、百合子が駆け込んでくる。
「成美!」百合子の声に、成美はもう一度まばたきした。
真菜が涙をこらえながら言った。「聞こえてる? 私たち、ずっと待ってたんだよ」
成美の唇がわずかに動いた。「……ただいま」
その一言に、全員の目から涙があふれた。
しばらくして医師が言った。
「無理をさせないでください。でも、このまま順調なら数日で一般病棟に移れます」
岳たちはうなずき、そっと成美の手を握ったまま椅子に腰掛けた。
窓の外には青空が広がっている。
岳が静かに語り始めた。
「覚えてる? 初めて会ったときのこと。音楽室前の階段でさ、君が息切れしてて……俺、何て言ったか覚えてる?」
成美はゆっくりとまばたきをし、口角を上げた。
その日から、仲間たちは交代で病室を訪れた。
太陽は撮影した空の映像を見せ、真菜は色鮮やかな折り紙を持ってきた。
哲平は剣道の稽古話をし、百合子は放送委員らしく明るく読み聞かせをした。
成美は声が出せなかったが、目で笑い、まばたきで返事をした。
岳は毎日欠かさず訪れ、坂道での出会いや夢ノートの話を何度も繰り返した。
「俺、あの日からずっと成美のこと見てたんだ。だから――」
言いかけて、彼は少し照れたように笑った。
「退院したら、また夢ノートに続きを書こうな」
数日後、成美は一般病棟へ移動した。
ベッド脇の窓からは秋の澄んだ青空が広がっている。
まだ声は出ないが、少しずつ表情が柔らかくなっていくのがわかる。
その日の午後、岳たちがそろってやってきた。
「ほら、これ」真菜が夢ノートを差し出す。
表紙にはみんなのサインと小さな花のシールが貼られていた。
「新しいページを作ったんだよ。退院したら一緒に書こうと思って」
成美は両手でそっとそれを抱きしめた。
太陽が笑って言った。「お前、これでまた撮影会も再開できるぞ」
哲平も続けた。「剣道の大会も見に来てよな」
百合子は放送委員らしく声を張る。「復帰祝いは、私の特番でやるからね!」
その夜、岳が一人で病室に残った。
「成美」
彼は窓の外に広がる夜景を指さす。
「今、街の灯りがすごくきれいだよ。……退院したら、一緒にまた屋上行こう。あの日の花火の続き、見せたいんだ」
成美は小さくまばたきし、指先で夢ノートを示した。
秋祭りの話題も出始めた。
百合子が提案する。「成美の退院祝い、秋祭りでしようよ」
真菜は笑顔でうなずく。「屋台も全部回ろうね」
太陽はスマホで日程を確認していた。「その日、ドローンも持っていく」
「……だから、早く元気になってね」哲平が真剣な目で言った。
成美は両手で小さく丸を作り、まばたきを二度。――「約束」のサインだった。
退院までの数日、成美はリハビリを頑張った。
まだ歩くとすぐに息が上がるが、そのたびに岳が支えた。
「無理すんなよ。でも、一歩ずつでいい」
成美は笑顔でうなずき、小さくガッツポーズを作った。
窓際のベンチでは、太陽がカメラを構えている。
「ほら、また笑って。退院のときにスライドショー作るんだから」
真菜は折り紙の飾りを貼りながら、「あの夢ノートの新しいページ、もういっぱいになるね」とつぶやいた。
百合子は放送委員の声を生かし、病棟でのアナウンス練習を続けている。
「退院の日、私が館内放送でサプライズするんだ!」
哲平は「俺も警備担当で入口立ってるからな」と照れ隠しのように笑った。
夜、岳は成美のベッドの横に座り、静かに言った。
「成美、手術の前に言いかけたこと、覚えてる?」
成美は目を瞬かせてうなずいた。
「俺……君といると、何でもできる気がするんだ。だから、これからも一緒に夢を書いていこう」
成美の目に涙がたまり、彼女はゆっくりとうなずいた。
そして退院の日。
玄関前には花束を持った仲間たちが待っていた。
「おかえり!」
百合子の声に合わせて、みんなが拍手する。
成美はマスク越しに笑い、夢ノートを掲げた。
その表紙には、〈未来はここから〉という文字が書き加えられていた。
病院の外に出た瞬間、秋の風が成美の頬を撫でた。
胸の奥にじんわりと温かさが広がる。(生きてる……帰ってこれたんだ)
岳が歩調を合わせて言った。
「次は秋祭りだな。約束、覚えてるよな?」
成美は笑顔でうなずき、夢ノートを抱きしめた。
太陽が撮影した写真を画面で見せる。「ほら、手術の前夜の映像も編集したんだ。あの屋上の花火、成美にも見せたくて」
映し出されたみんなの笑顔に、成美の目に涙がにじむ。
百合子が両手を広げた。「これからは、いっぱい笑おうね!」
「もちろん!」成美の声はまだ小さかったが、しっかりと響いた。
集中治療室の静かな朝。成美はまだ目を閉じたままだったが、心電図のリズムは安定していた。
岳は窓際の椅子に座り、ブレスレットを握りしめていた。(もう一度……笑ってくれ)
医師がそっと言った。
「意識が戻りかけています。声をかけてみてください」
岳は立ち上がり、成美の耳元でささやいた。
「成美、起きて。……朝日、まだ一緒に見てないだろ」
まぶたがわずかに震え、成美が小さくまばたきをした。
その瞬間、岳は思わず手を握った。「ありがとう……」
太陽と真菜、哲平、百合子が駆け込んでくる。
「成美!」百合子の声に、成美はもう一度まばたきした。
真菜が涙をこらえながら言った。「聞こえてる? 私たち、ずっと待ってたんだよ」
成美の唇がわずかに動いた。「……ただいま」
その一言に、全員の目から涙があふれた。
しばらくして医師が言った。
「無理をさせないでください。でも、このまま順調なら数日で一般病棟に移れます」
岳たちはうなずき、そっと成美の手を握ったまま椅子に腰掛けた。
窓の外には青空が広がっている。
岳が静かに語り始めた。
「覚えてる? 初めて会ったときのこと。音楽室前の階段でさ、君が息切れしてて……俺、何て言ったか覚えてる?」
成美はゆっくりとまばたきをし、口角を上げた。
その日から、仲間たちは交代で病室を訪れた。
太陽は撮影した空の映像を見せ、真菜は色鮮やかな折り紙を持ってきた。
哲平は剣道の稽古話をし、百合子は放送委員らしく明るく読み聞かせをした。
成美は声が出せなかったが、目で笑い、まばたきで返事をした。
岳は毎日欠かさず訪れ、坂道での出会いや夢ノートの話を何度も繰り返した。
「俺、あの日からずっと成美のこと見てたんだ。だから――」
言いかけて、彼は少し照れたように笑った。
「退院したら、また夢ノートに続きを書こうな」
数日後、成美は一般病棟へ移動した。
ベッド脇の窓からは秋の澄んだ青空が広がっている。
まだ声は出ないが、少しずつ表情が柔らかくなっていくのがわかる。
その日の午後、岳たちがそろってやってきた。
「ほら、これ」真菜が夢ノートを差し出す。
表紙にはみんなのサインと小さな花のシールが貼られていた。
「新しいページを作ったんだよ。退院したら一緒に書こうと思って」
成美は両手でそっとそれを抱きしめた。
太陽が笑って言った。「お前、これでまた撮影会も再開できるぞ」
哲平も続けた。「剣道の大会も見に来てよな」
百合子は放送委員らしく声を張る。「復帰祝いは、私の特番でやるからね!」
その夜、岳が一人で病室に残った。
「成美」
彼は窓の外に広がる夜景を指さす。
「今、街の灯りがすごくきれいだよ。……退院したら、一緒にまた屋上行こう。あの日の花火の続き、見せたいんだ」
成美は小さくまばたきし、指先で夢ノートを示した。
秋祭りの話題も出始めた。
百合子が提案する。「成美の退院祝い、秋祭りでしようよ」
真菜は笑顔でうなずく。「屋台も全部回ろうね」
太陽はスマホで日程を確認していた。「その日、ドローンも持っていく」
「……だから、早く元気になってね」哲平が真剣な目で言った。
成美は両手で小さく丸を作り、まばたきを二度。――「約束」のサインだった。
退院までの数日、成美はリハビリを頑張った。
まだ歩くとすぐに息が上がるが、そのたびに岳が支えた。
「無理すんなよ。でも、一歩ずつでいい」
成美は笑顔でうなずき、小さくガッツポーズを作った。
窓際のベンチでは、太陽がカメラを構えている。
「ほら、また笑って。退院のときにスライドショー作るんだから」
真菜は折り紙の飾りを貼りながら、「あの夢ノートの新しいページ、もういっぱいになるね」とつぶやいた。
百合子は放送委員の声を生かし、病棟でのアナウンス練習を続けている。
「退院の日、私が館内放送でサプライズするんだ!」
哲平は「俺も警備担当で入口立ってるからな」と照れ隠しのように笑った。
夜、岳は成美のベッドの横に座り、静かに言った。
「成美、手術の前に言いかけたこと、覚えてる?」
成美は目を瞬かせてうなずいた。
「俺……君といると、何でもできる気がするんだ。だから、これからも一緒に夢を書いていこう」
成美の目に涙がたまり、彼女はゆっくりとうなずいた。
そして退院の日。
玄関前には花束を持った仲間たちが待っていた。
「おかえり!」
百合子の声に合わせて、みんなが拍手する。
成美はマスク越しに笑い、夢ノートを掲げた。
その表紙には、〈未来はここから〉という文字が書き加えられていた。
病院の外に出た瞬間、秋の風が成美の頬を撫でた。
胸の奥にじんわりと温かさが広がる。(生きてる……帰ってこれたんだ)
岳が歩調を合わせて言った。
「次は秋祭りだな。約束、覚えてるよな?」
成美は笑顔でうなずき、夢ノートを抱きしめた。
太陽が撮影した写真を画面で見せる。「ほら、手術の前夜の映像も編集したんだ。あの屋上の花火、成美にも見せたくて」
映し出されたみんなの笑顔に、成美の目に涙がにじむ。
百合子が両手を広げた。「これからは、いっぱい笑おうね!」
「もちろん!」成美の声はまだ小さかったが、しっかりと響いた。


