五度目の朝。
成美は目覚まし時計をじっと見つめ、指先がシーツをぎゅっと握りしめていた。枕元のカーテン越しに差し込む夏の朝日が、ほのかに白い光で部屋を染めている。窓の外からはセミの声が響き、昨日と同じ景色と同じ音が広がっていた。
(また同じ日……でも、今日はもっと踏み込む)
胸の奥が少し熱くなる。恐怖よりも、決意のほうが大きかった。
朝食の席で、母がフライパンから卵を皿に移していた。湯気が立ち、バターの香りがふわりと広がる。
「ありがとう」
思わず口にしたその言葉に、母が目を丸くした。「え? あ、うん……どうしたの急に」
成美は笑って答えた。「なんでもないよ。ありがとうって言いたかっただけ」
母は照れくさそうに笑い返した。
家を出ると、朝の光が強くて目を細める。アスファルトの匂いが熱に混じり、遠くで工事の音と自転車のベルが重なった。
(このループには意味がある。みんなの心をもっと知れってことなんだ)
学校に着くと、教室で太陽がドローン雑誌を広げていた。光沢のあるページに映る機体の写真が、窓から差し込む日差しを反射していた。
「太陽、将来は何になりたい?」
唐突な質問に太陽は目を瞬かせ、雑誌を閉じる手が少し止まった。やがて小さく笑いながら言う。
「映像クリエイター。……でも家のこと考えると無理かなって」
「諦めるの?」
「わかんない。今は夢だけで生きられないから」
その表情はどこか寂しげだった。
「でも、夢があるだけで強いと思う」
成美はまっすぐ言った。胸が少し高鳴っていた。
太陽は耳の先まで赤くし、視線を逸らした。「……ありがとな」
放課後、哲平を呼び止めた。剣道部のバッグを肩にかけた彼は汗で髪が額に張り付いている。
「哲平って、剣道の他にしたいことある?」
「え? ないな……いや、あるけど言えない」
「言ってみて」
哲平は少し口ごもり、目をそらしながら言った。
「音楽やってみたい。バンドとか。でも、バカにされそうで」
「誰も笑わないよ」成美は笑った。「私、聴いてみたい」
哲平は耳を赤くし、照れたようにそっぽを向いた。
図書室では真菜が書類整理をしていた。カーテン越しに夕陽が差し込み、紙の端が淡く橙色に染まっている。
「真菜はさ、もっと目立ちたい?」
「え……そんなことないよ」
「でも、表彰されるときに後ろに下がるじゃない」
真菜は一瞬手を止めて視線を落とした。
「私、前に出るのが怖いんだよ。でも……ほんとは、ちょっと憧れてる」
「それでいいんじゃない? 怖いけど憧れるって、すごく大事」
真菜はゆっくりと頷き、柔らかく微笑んだ。
放送室では百合子が機材を調整していた。
「今日の放送、すごく元気出たよ」
成美の言葉に、百合子は苦笑いを浮かべる。
「でも私、失敗も多いし、自信ないよ」
「声で誰かを元気にできるって、すごいことだと思う」
百合子の目が少し潤み、「……ありがとう」と小さく答えた。
屋上に行くと岳が空を見ていた。雲の切れ間から夏の陽射しが降り注ぎ、彼の横顔を白く縁取っていた。
「何考えてるの?」
「この街がもっとよくなればいいなって。でも、口だけじゃ意味ないかな」
「意味あるよ。理想を口にするだけで誰かが動けるんだから」
「……そう思ってくれるのは成美だけだな」岳は少し照れたように笑った。
その瞬間、雷鳴が響き、空が光った。湿った風が頬をなでる。
「また……?」成美は拳を握った。(まだ繰り返す。でも、それでいい。みんなの想いをもっと知りたい)
翌朝、また同じ日。
しかし成美の胸には迷いがなかった。(次はもっと深く聞こう。もっと寄り添いたい)
授業を終えた後、成美は仲間全員を集めた。窓際から差し込む西日の中、みんなの顔が少し赤みを帯びて見えた。
「ねえ、私、みんなの夢をちゃんと知りたいの。だから今日は教えて」
仲間たちは顔を見合わせたが、少しずつ話し始める。
太陽はドローンで映画を撮りたいと語り、哲平は音楽の夢をもう一度話した。百合子は声で誰かを助けたいと話し、真菜は舞台裏から前に出たいと呟いた。岳は、街をよくする大人になりたいと語った。
「ありがとう。……それ聞けて嬉しい」成美は目を閉じ、夢ノートに書き込んだ。
その夜、成美は机にノートを広げ、丁寧にペンを走らせた。
〈太陽:映像で笑顔を集めたい〉
〈哲平:音楽で心を揺さぶりたい〉
〈百合子:声で人を支えたい〉
〈真菜:裏方だけでなく前にも立ってみたい〉
〈岳:街をよくする大人になりたい〉
書き終えた瞬間、胸が温かくなった。
「みんな、すごいよ」
雷鳴が遠くで響く。しかし成美は恐怖を感じなかった。(繰り返すなら、そのたびに夢を応援する。それが私の役目なんだ)
六度目の朝。
成美は母に「今日もありがとう」と言い、学校へ向かった。道端のアサガオが朝日に光っている。
太陽に「映像の話、もっと聞きたい」と声をかけ、哲平には「次、音楽聴かせて」とお願いした。百合子には「落ち込んだとき、私も支えるよ」と伝え、真菜には「表に出たいときは私が一緒にいる」と約束した。岳には「その理想、一緒に語っていい?」と尋ねた。
みんなが少し照れくさそうに笑う。その笑顔に、成美の胸はじんわりと温まった。
放課後、屋上に上がると、夏の空が広がっていた。雲の隙間から差す光がまぶしくて目を細める。
(まだ終わらない。でも、怖くない)
雷鳴がまた響いたとき、成美は小さく笑った。「ありがとう、この日をくれて」
白い光が視界を覆い、世界がまたリセットされる感覚が訪れた。
目を覚ますと、やはり同じ朝だった。
(七回目……でも、私の中身はもう昨日と違う)
学校に向かいながら、成美は心の中で未来を想像した。
(手術が終わった後、みんなはどうなっているんだろう。太陽は映像で笑顔を撮ってるかな。哲平は音楽で人を揺さぶってるかな。百合子は声で誰かを救ってるかな。真菜は前に出て輝いているかな。岳は理想を語り、街を動かしているかな)
胸が熱くなる。
(私も……そんな未来を一緒に見たい)
教室で仲間たちと目が合った瞬間、成美は笑顔を浮かべて言った。
「みんな、ありがとう。私、頑張るから」
理由を知らない仲間たちは首を傾げたが、誰も笑わなかった。
成美は目覚まし時計をじっと見つめ、指先がシーツをぎゅっと握りしめていた。枕元のカーテン越しに差し込む夏の朝日が、ほのかに白い光で部屋を染めている。窓の外からはセミの声が響き、昨日と同じ景色と同じ音が広がっていた。
(また同じ日……でも、今日はもっと踏み込む)
胸の奥が少し熱くなる。恐怖よりも、決意のほうが大きかった。
朝食の席で、母がフライパンから卵を皿に移していた。湯気が立ち、バターの香りがふわりと広がる。
「ありがとう」
思わず口にしたその言葉に、母が目を丸くした。「え? あ、うん……どうしたの急に」
成美は笑って答えた。「なんでもないよ。ありがとうって言いたかっただけ」
母は照れくさそうに笑い返した。
家を出ると、朝の光が強くて目を細める。アスファルトの匂いが熱に混じり、遠くで工事の音と自転車のベルが重なった。
(このループには意味がある。みんなの心をもっと知れってことなんだ)
学校に着くと、教室で太陽がドローン雑誌を広げていた。光沢のあるページに映る機体の写真が、窓から差し込む日差しを反射していた。
「太陽、将来は何になりたい?」
唐突な質問に太陽は目を瞬かせ、雑誌を閉じる手が少し止まった。やがて小さく笑いながら言う。
「映像クリエイター。……でも家のこと考えると無理かなって」
「諦めるの?」
「わかんない。今は夢だけで生きられないから」
その表情はどこか寂しげだった。
「でも、夢があるだけで強いと思う」
成美はまっすぐ言った。胸が少し高鳴っていた。
太陽は耳の先まで赤くし、視線を逸らした。「……ありがとな」
放課後、哲平を呼び止めた。剣道部のバッグを肩にかけた彼は汗で髪が額に張り付いている。
「哲平って、剣道の他にしたいことある?」
「え? ないな……いや、あるけど言えない」
「言ってみて」
哲平は少し口ごもり、目をそらしながら言った。
「音楽やってみたい。バンドとか。でも、バカにされそうで」
「誰も笑わないよ」成美は笑った。「私、聴いてみたい」
哲平は耳を赤くし、照れたようにそっぽを向いた。
図書室では真菜が書類整理をしていた。カーテン越しに夕陽が差し込み、紙の端が淡く橙色に染まっている。
「真菜はさ、もっと目立ちたい?」
「え……そんなことないよ」
「でも、表彰されるときに後ろに下がるじゃない」
真菜は一瞬手を止めて視線を落とした。
「私、前に出るのが怖いんだよ。でも……ほんとは、ちょっと憧れてる」
「それでいいんじゃない? 怖いけど憧れるって、すごく大事」
真菜はゆっくりと頷き、柔らかく微笑んだ。
放送室では百合子が機材を調整していた。
「今日の放送、すごく元気出たよ」
成美の言葉に、百合子は苦笑いを浮かべる。
「でも私、失敗も多いし、自信ないよ」
「声で誰かを元気にできるって、すごいことだと思う」
百合子の目が少し潤み、「……ありがとう」と小さく答えた。
屋上に行くと岳が空を見ていた。雲の切れ間から夏の陽射しが降り注ぎ、彼の横顔を白く縁取っていた。
「何考えてるの?」
「この街がもっとよくなればいいなって。でも、口だけじゃ意味ないかな」
「意味あるよ。理想を口にするだけで誰かが動けるんだから」
「……そう思ってくれるのは成美だけだな」岳は少し照れたように笑った。
その瞬間、雷鳴が響き、空が光った。湿った風が頬をなでる。
「また……?」成美は拳を握った。(まだ繰り返す。でも、それでいい。みんなの想いをもっと知りたい)
翌朝、また同じ日。
しかし成美の胸には迷いがなかった。(次はもっと深く聞こう。もっと寄り添いたい)
授業を終えた後、成美は仲間全員を集めた。窓際から差し込む西日の中、みんなの顔が少し赤みを帯びて見えた。
「ねえ、私、みんなの夢をちゃんと知りたいの。だから今日は教えて」
仲間たちは顔を見合わせたが、少しずつ話し始める。
太陽はドローンで映画を撮りたいと語り、哲平は音楽の夢をもう一度話した。百合子は声で誰かを助けたいと話し、真菜は舞台裏から前に出たいと呟いた。岳は、街をよくする大人になりたいと語った。
「ありがとう。……それ聞けて嬉しい」成美は目を閉じ、夢ノートに書き込んだ。
その夜、成美は机にノートを広げ、丁寧にペンを走らせた。
〈太陽:映像で笑顔を集めたい〉
〈哲平:音楽で心を揺さぶりたい〉
〈百合子:声で人を支えたい〉
〈真菜:裏方だけでなく前にも立ってみたい〉
〈岳:街をよくする大人になりたい〉
書き終えた瞬間、胸が温かくなった。
「みんな、すごいよ」
雷鳴が遠くで響く。しかし成美は恐怖を感じなかった。(繰り返すなら、そのたびに夢を応援する。それが私の役目なんだ)
六度目の朝。
成美は母に「今日もありがとう」と言い、学校へ向かった。道端のアサガオが朝日に光っている。
太陽に「映像の話、もっと聞きたい」と声をかけ、哲平には「次、音楽聴かせて」とお願いした。百合子には「落ち込んだとき、私も支えるよ」と伝え、真菜には「表に出たいときは私が一緒にいる」と約束した。岳には「その理想、一緒に語っていい?」と尋ねた。
みんなが少し照れくさそうに笑う。その笑顔に、成美の胸はじんわりと温まった。
放課後、屋上に上がると、夏の空が広がっていた。雲の隙間から差す光がまぶしくて目を細める。
(まだ終わらない。でも、怖くない)
雷鳴がまた響いたとき、成美は小さく笑った。「ありがとう、この日をくれて」
白い光が視界を覆い、世界がまたリセットされる感覚が訪れた。
目を覚ますと、やはり同じ朝だった。
(七回目……でも、私の中身はもう昨日と違う)
学校に向かいながら、成美は心の中で未来を想像した。
(手術が終わった後、みんなはどうなっているんだろう。太陽は映像で笑顔を撮ってるかな。哲平は音楽で人を揺さぶってるかな。百合子は声で誰かを救ってるかな。真菜は前に出て輝いているかな。岳は理想を語り、街を動かしているかな)
胸が熱くなる。
(私も……そんな未来を一緒に見たい)
教室で仲間たちと目が合った瞬間、成美は笑顔を浮かべて言った。
「みんな、ありがとう。私、頑張るから」
理由を知らない仲間たちは首を傾げたが、誰も笑わなかった。


