七月下旬の朝、港の倉庫は活気に包まれていた。柚たちは今日から本格的な潜航訓練に入ることになっていたのだ。
「よし、器材の最終チェック完了!」可奈子が声を上げ、器材リストを確認する。
千愛は腕を組み、全員を見回した。
「昨日までで基礎はできた。今日からは実際に海に潜る。安全第一でいくよ」
その真剣な声に全員の表情が引き締まった。
訓練場所は港の外れにある小さな入り江。波が比較的穏やかで初心者には最適な環境だ。柚はウェットスーツに身を包み、ペンダントを服の内側にしまい込んだ。
「絶対に落とせないから」
湊斗が頷き、潜航計画の最終確認を行う。
「今日は浅瀬での訓練と、潮流の変化を体で感じることが目的だ。午後には十メートル地点まで潜る」
航太は少し緊張しながらも、データロガーを手にしていた。
「潮の動き……全部記録する」
ドリューは安全補助を買って出て、カロリーナは水中での動き方を指導するために先頭に立った。
柚は海に足を踏み入れた。冷たい海水が足首を包み、胸が高鳴る。マスクをつけて呼吸を整え、ゆっくりと潜行した。視界には揺れる海草と小さな魚が見える。息が少し荒くなりそうだったが、千愛の言葉を思い出した。
――呼吸はゆっくり、焦らない。
そのとおりにすると、不思議と落ち着きを取り戻せた。
午前中の訓練は順調に進み、昼休憩には全員が笑顔を見せていた。
「初めてにしてはいい感じだな」湊斗が感想を述べる。
「午後はさらに深く潜ろう。潮流が少し強くなる時間帯だけど、経験を積むにはちょうどいい」
柚は深呼吸し、ペンダントを握った。海の向こうには、まだ見ぬ遺跡が眠っている。
午後、柚たちは再び海へと向かった。太陽は頭上にあり、海面は白くきらめいている。午前中に比べて潮の流れが少し強まっていたが、それが訓練にはちょうどいい条件だった。
「よし、順番に潜ろう」千愛の掛け声で、柚と湊斗が先頭に立つ。
海に入った瞬間、柚の胸は少し高鳴った。だが、午前中の経験があるためか、恐怖は薄れていた。呼吸を整え、ロープをたぐりながらゆっくりと潜行する。
水深五メートル地点で一度停止し、湊斗とアイコンタクトを取る。湊斗は親指を立てて合図した。柚も同じ動作で返事をし、さらに深く潜る。
十メートル地点に到達すると、耳が少し痛む。教わった通りに鼻をつまんで圧を抜くと、痛みが和らいだ。周囲は青く、太陽の光が届かない場所もある。
――これが、遺跡に近づくための第一歩……。
胸の奥に不思議な緊張と期待が混じり合った。
浮上後、カロリーナが興奮した様子で声を上げた。
「みんな、フォームがきれいになってる! これならもっと深く潜れるよ!」
ドリューも頷きながら言った。
「潮の流れにも対応できていた。次は方向感覚を鍛えよう」
その後も繰り返し潜り、徐々に深度を伸ばしていった。夕方になるころには全員が二十メートル地点まで安定して潜れるようになっていた。
訓練を終えたメンバーは港に戻り、器材を片付けながら息を弾ませていた。
「……やったね」柚が笑顔を浮かべると、千愛も頷いた。
「この調子ならテスト潜航も問題ないよ」
湊斗がホワイトボードに進捗を記入した。
「予定より早いペースで進んでる。この勢いでいこう」
柚はペンダントを手に取り、光の加減を確かめた。今日も淡い光を放っている。
「きっと、おばあちゃんも喜んでる……」小さく呟くと、風がそっと頬をなでた。
夜、港の倉庫に全員が集まり、今日の訓練の成果を振り返った。千愛がホワイトボードの前に立ち、進捗を確認する。
「全員が二十メートルまで潜れるようになった。次のステップは方向感覚と持久力だね」
ドリューが手を挙げた。
「潮流に逆らう動きも練習した方がいいと思う。遺跡周辺は複雑な流れがある」
「了解。明日からメニューに追加しよう」千愛が頷く。
湊斗は机に広げた海図を指でなぞり、真剣な声で言った。
「このルートを通れば、裂け目の入口まで行ける。だけど時間との勝負になる。潮が変わる前に作業を終えないと」
「そのためにも体力をつけておかないとね」可奈子が微笑んだ。
柚はそんな仲間たちを見て胸が温かくなった。自分だけでは決して成し遂げられないことも、今なら仲間となら挑める。
ペンダントが再び光り、針が静かに灯台の方角を指した。まるで「次へ進め」と告げているようだ。
「おばあちゃん……見ててね」柚はそっと呟いた。
その夜、布団に入った柚は目を閉じ、明日の訓練のイメージを繰り返した。耳の奥に、あの灯台守の声がまた聞こえた気がした。
――守ってくれ。導標を。
その言葉を胸に抱きながら、柚は深い眠りに落ちていった。
「よし、器材の最終チェック完了!」可奈子が声を上げ、器材リストを確認する。
千愛は腕を組み、全員を見回した。
「昨日までで基礎はできた。今日からは実際に海に潜る。安全第一でいくよ」
その真剣な声に全員の表情が引き締まった。
訓練場所は港の外れにある小さな入り江。波が比較的穏やかで初心者には最適な環境だ。柚はウェットスーツに身を包み、ペンダントを服の内側にしまい込んだ。
「絶対に落とせないから」
湊斗が頷き、潜航計画の最終確認を行う。
「今日は浅瀬での訓練と、潮流の変化を体で感じることが目的だ。午後には十メートル地点まで潜る」
航太は少し緊張しながらも、データロガーを手にしていた。
「潮の動き……全部記録する」
ドリューは安全補助を買って出て、カロリーナは水中での動き方を指導するために先頭に立った。
柚は海に足を踏み入れた。冷たい海水が足首を包み、胸が高鳴る。マスクをつけて呼吸を整え、ゆっくりと潜行した。視界には揺れる海草と小さな魚が見える。息が少し荒くなりそうだったが、千愛の言葉を思い出した。
――呼吸はゆっくり、焦らない。
そのとおりにすると、不思議と落ち着きを取り戻せた。
午前中の訓練は順調に進み、昼休憩には全員が笑顔を見せていた。
「初めてにしてはいい感じだな」湊斗が感想を述べる。
「午後はさらに深く潜ろう。潮流が少し強くなる時間帯だけど、経験を積むにはちょうどいい」
柚は深呼吸し、ペンダントを握った。海の向こうには、まだ見ぬ遺跡が眠っている。
午後、柚たちは再び海へと向かった。太陽は頭上にあり、海面は白くきらめいている。午前中に比べて潮の流れが少し強まっていたが、それが訓練にはちょうどいい条件だった。
「よし、順番に潜ろう」千愛の掛け声で、柚と湊斗が先頭に立つ。
海に入った瞬間、柚の胸は少し高鳴った。だが、午前中の経験があるためか、恐怖は薄れていた。呼吸を整え、ロープをたぐりながらゆっくりと潜行する。
水深五メートル地点で一度停止し、湊斗とアイコンタクトを取る。湊斗は親指を立てて合図した。柚も同じ動作で返事をし、さらに深く潜る。
十メートル地点に到達すると、耳が少し痛む。教わった通りに鼻をつまんで圧を抜くと、痛みが和らいだ。周囲は青く、太陽の光が届かない場所もある。
――これが、遺跡に近づくための第一歩……。
胸の奥に不思議な緊張と期待が混じり合った。
浮上後、カロリーナが興奮した様子で声を上げた。
「みんな、フォームがきれいになってる! これならもっと深く潜れるよ!」
ドリューも頷きながら言った。
「潮の流れにも対応できていた。次は方向感覚を鍛えよう」
その後も繰り返し潜り、徐々に深度を伸ばしていった。夕方になるころには全員が二十メートル地点まで安定して潜れるようになっていた。
訓練を終えたメンバーは港に戻り、器材を片付けながら息を弾ませていた。
「……やったね」柚が笑顔を浮かべると、千愛も頷いた。
「この調子ならテスト潜航も問題ないよ」
湊斗がホワイトボードに進捗を記入した。
「予定より早いペースで進んでる。この勢いでいこう」
柚はペンダントを手に取り、光の加減を確かめた。今日も淡い光を放っている。
「きっと、おばあちゃんも喜んでる……」小さく呟くと、風がそっと頬をなでた。
夜、港の倉庫に全員が集まり、今日の訓練の成果を振り返った。千愛がホワイトボードの前に立ち、進捗を確認する。
「全員が二十メートルまで潜れるようになった。次のステップは方向感覚と持久力だね」
ドリューが手を挙げた。
「潮流に逆らう動きも練習した方がいいと思う。遺跡周辺は複雑な流れがある」
「了解。明日からメニューに追加しよう」千愛が頷く。
湊斗は机に広げた海図を指でなぞり、真剣な声で言った。
「このルートを通れば、裂け目の入口まで行ける。だけど時間との勝負になる。潮が変わる前に作業を終えないと」
「そのためにも体力をつけておかないとね」可奈子が微笑んだ。
柚はそんな仲間たちを見て胸が温かくなった。自分だけでは決して成し遂げられないことも、今なら仲間となら挑める。
ペンダントが再び光り、針が静かに灯台の方角を指した。まるで「次へ進め」と告げているようだ。
「おばあちゃん……見ててね」柚はそっと呟いた。
その夜、布団に入った柚は目を閉じ、明日の訓練のイメージを繰り返した。耳の奥に、あの灯台守の声がまた聞こえた気がした。
――守ってくれ。導標を。
その言葉を胸に抱きながら、柚は深い眠りに落ちていった。


