翌朝、まだ太陽が水平線の向こうで赤く滲むころ、八人は港の倉庫に集まった。昨夜のうちに湊斗が町議会と調整し、ここを仮本部として使えるよう手配していたのだ。
柚が到着すると、すでに千愛と航太が潜水器材を点検していた。
「おはよう!」
柚の声に二人が顔を上げる。千愛は額の汗を拭い、笑った。
「今日は潜航計画の詳細を立てるんでしょ? 気合い入れてきたよ」
航太は少し照れたように頷き、手元の計器を持ち上げた。
「これ……昨日、借りた……深度計」
言葉は滑らかではなかったが、情報を扱う彼の目は真剣そのものだ。
会議用のホワイトボードが用意され、湊斗が大きな紙を広げた。そこには昨日まとめた灯台周辺と遺跡までの海底地形図が描かれている。
「みんな集まったね。じゃあ始めよう」
湊斗の声で全員が静かになった。
まず議題に上がったのは潜航ルートだ。
「入口の裂け目は断崖の下。潮流が強く、初心者には危険だ」湊斗は指で地図をなぞりながら説明する。
カロリーナがドローン映像をタブレットに映し出した。昨日、彼女が崖の上から撮影したものだ。
「見て、この影になってる部分。ここが裂け目よ」
ドリューが画面を覗き込み、メモを取りながら言った。
「安全に降りるには補助ロープが必要だな。それに潮のタイミングを読まないと危険だ」
「そこは私の担当!」千愛が手を挙げた。
「潜水講習で全員をレベルアップさせる。最低でも二十メートルまで安定して潜れるようにしよう」
次に調律に必要な道具と呪文の確認に移った。航太が昨日写した古文書のコピーを広げる。
「呪文……このリズムで唱える。間違えると……封印できない」
彼の言葉は途切れ途切れだったが、その内容は明確だった。可奈子は真剣に聞きながらメモを取り、顔を上げた。
「道具は町内会と港湾局に掛け合えば揃えられそう。昨日も『協力する』って言ってくれてたし」
貴史が微笑んで付け加えた。
「僕もサポートするよ。人と話すのは得意だからね」
計画の最後に湊斗は一度全員を見回した。
「期限は八月三十日正午。時間は限られてるけど、みんなの力を合わせれば必ず間に合う。……この町を守ろう」
その言葉に誰もが頷いた。柚は胸の奥が熱くなるのを感じ、ペンダントをそっと握った。針は確かに未来へ向けて動いているように見えた。
会議後、八人は二手に分かれて行動することになった。千愛、航太、カロリーナは潜水講習の準備のために体育館へ向かい、貴史と可奈子は港湾局や町内会への交渉を担当。湊斗、柚、ドリューは潜航ルートの現地確認に向かった。
柚は湊斗と並んで歩きながら、ふと尋ねた。
「ねえ、湊斗って、どうしてこの町の遺跡のことをそんなに知ってたの?」
湊斗は少し黙ってから答えた。
「父さんが海洋考古学者なんだ。昔、この遺跡を調べてたんだけど、封印に関する記録が抜けていて諦めたらしい。でも最近になって、封印が揺らいでるって話が入ってきた。それで俺が来たってわけ」
柚は目を見開いた。
「家族ぐるみで関わってたんだ……」
「だからこそ、今回のことは絶対に失敗できない」湊斗の瞳には強い意志が宿っていた。
一方そのころ、体育館では千愛がウェットスーツを並べていた。
「今日はまず基本からね。泳ぎに自信ある人も、潜水は別物だから気を抜かないで」
航太はタブレットで映像教材を用意し、カロリーナは海外で習得したレスキュー技術を披露した。
「呼吸はゆっくり、バランス重視。焦らないことが一番大切」
千愛の声には責任感が滲んでいた。彼女自身、成長する機会を逃さないよう必死だったのだ。
港湾局では可奈子が書類を抱えて係員に頭を下げていた。
「この計画で使う器材をお借りしたいんです。町を守るためにどうしても必要で……」
係員は驚いた表情を見せたが、貴史が横から穏やかな声で補足した。
「私たちには期限が迫っています。どうか協力していただけませんか?」
その落ち着いた声に係員の表情が和らいだ。
「分かりました。ただし使用記録は必ず残してくださいね」
「もちろんです、ありがとうございます!」
可奈子は深くお辞儀し、貴史も軽く会釈した。
夕方、全員が港の倉庫に戻った。湊斗たちは安全ルートの確認を終え、千愛たちは講習の進捗を報告。可奈子は器材の借用許可を取り付けていた。
「すごい、全部順調だね!」柚が笑顔で言った。
「これなら計画通り進められるな」湊斗の言葉に全員が安堵の表情を浮かべた。
その時、柚のペンダントが淡く光り、微かな震動を感じた。
「また……光った」
全員が一斉にペンダントを見つめた。湊斗が眉をひそめる。
「これは……次の一手を急げってことかもしれないな」
翌朝、柚たちは再び港に集まった。まだ太陽は昇りきっていないが、海面はすでに黄金色に輝いていた。前日の成果を踏まえて、具体的なスケジュールが湊斗によって提示された。
「今日から潜水訓練と同時に、道具の調達と封印呪文の練習を進める。三日後にはテスト潜航を実施しよう」
「三日後……大丈夫かな」可奈子が不安げに呟くと、千愛が力強く答えた。
「やるしかないよ。みんなでやればきっとできる」
ドリューは潮流の最新データをホワイトボードに貼り付けた。
「この時間帯なら潮の流れが緩む。潜航にはここが最適だ」
カロリーナは嬉しそうに声を上げた。
「じゃあ私、今日もドローンで入口付近を確認してくる!」
航太は小さな声で続ける。
「ぼくは……呪文の発音を、みんなに教える」
その言葉に全員が微笑み、自然と空気が柔らかくなった。
午後には初めての合同訓練が行われた。千愛の指導で潜水器材の装着と基本動作を確認し、柚は呼吸のリズムを覚えるのに苦戦したが、諦めずに繰り返した。湊斗は全員の動きを見守り、的確な助言を送る。貴史は緊張している仲間を励まし、可奈子は器材の管理とサポートに奔走した。
訓練を終えるころ、柚は体の疲れと同時に、心の奥に湧き上がる達成感を感じていた。これが仲間と共に挑むということなのだと理解できたのだ。
「みんな……ありがとう」
その声は小さかったが、確かな決意を帯びていた。
夕暮れの港に戻ると、ペンダントが再び淡く光った。
「また光ったね……」
湊斗がそれを見つめ、低く呟いた。
「きっと遺跡が動き始めている。時間との勝負だ」
柚はペンダントを握り、静かに誓った。
――必ず成功させる。仲間と一緒に。
夏の海風が、彼らの決意を後押しするように吹き抜けた。
柚が到着すると、すでに千愛と航太が潜水器材を点検していた。
「おはよう!」
柚の声に二人が顔を上げる。千愛は額の汗を拭い、笑った。
「今日は潜航計画の詳細を立てるんでしょ? 気合い入れてきたよ」
航太は少し照れたように頷き、手元の計器を持ち上げた。
「これ……昨日、借りた……深度計」
言葉は滑らかではなかったが、情報を扱う彼の目は真剣そのものだ。
会議用のホワイトボードが用意され、湊斗が大きな紙を広げた。そこには昨日まとめた灯台周辺と遺跡までの海底地形図が描かれている。
「みんな集まったね。じゃあ始めよう」
湊斗の声で全員が静かになった。
まず議題に上がったのは潜航ルートだ。
「入口の裂け目は断崖の下。潮流が強く、初心者には危険だ」湊斗は指で地図をなぞりながら説明する。
カロリーナがドローン映像をタブレットに映し出した。昨日、彼女が崖の上から撮影したものだ。
「見て、この影になってる部分。ここが裂け目よ」
ドリューが画面を覗き込み、メモを取りながら言った。
「安全に降りるには補助ロープが必要だな。それに潮のタイミングを読まないと危険だ」
「そこは私の担当!」千愛が手を挙げた。
「潜水講習で全員をレベルアップさせる。最低でも二十メートルまで安定して潜れるようにしよう」
次に調律に必要な道具と呪文の確認に移った。航太が昨日写した古文書のコピーを広げる。
「呪文……このリズムで唱える。間違えると……封印できない」
彼の言葉は途切れ途切れだったが、その内容は明確だった。可奈子は真剣に聞きながらメモを取り、顔を上げた。
「道具は町内会と港湾局に掛け合えば揃えられそう。昨日も『協力する』って言ってくれてたし」
貴史が微笑んで付け加えた。
「僕もサポートするよ。人と話すのは得意だからね」
計画の最後に湊斗は一度全員を見回した。
「期限は八月三十日正午。時間は限られてるけど、みんなの力を合わせれば必ず間に合う。……この町を守ろう」
その言葉に誰もが頷いた。柚は胸の奥が熱くなるのを感じ、ペンダントをそっと握った。針は確かに未来へ向けて動いているように見えた。
会議後、八人は二手に分かれて行動することになった。千愛、航太、カロリーナは潜水講習の準備のために体育館へ向かい、貴史と可奈子は港湾局や町内会への交渉を担当。湊斗、柚、ドリューは潜航ルートの現地確認に向かった。
柚は湊斗と並んで歩きながら、ふと尋ねた。
「ねえ、湊斗って、どうしてこの町の遺跡のことをそんなに知ってたの?」
湊斗は少し黙ってから答えた。
「父さんが海洋考古学者なんだ。昔、この遺跡を調べてたんだけど、封印に関する記録が抜けていて諦めたらしい。でも最近になって、封印が揺らいでるって話が入ってきた。それで俺が来たってわけ」
柚は目を見開いた。
「家族ぐるみで関わってたんだ……」
「だからこそ、今回のことは絶対に失敗できない」湊斗の瞳には強い意志が宿っていた。
一方そのころ、体育館では千愛がウェットスーツを並べていた。
「今日はまず基本からね。泳ぎに自信ある人も、潜水は別物だから気を抜かないで」
航太はタブレットで映像教材を用意し、カロリーナは海外で習得したレスキュー技術を披露した。
「呼吸はゆっくり、バランス重視。焦らないことが一番大切」
千愛の声には責任感が滲んでいた。彼女自身、成長する機会を逃さないよう必死だったのだ。
港湾局では可奈子が書類を抱えて係員に頭を下げていた。
「この計画で使う器材をお借りしたいんです。町を守るためにどうしても必要で……」
係員は驚いた表情を見せたが、貴史が横から穏やかな声で補足した。
「私たちには期限が迫っています。どうか協力していただけませんか?」
その落ち着いた声に係員の表情が和らいだ。
「分かりました。ただし使用記録は必ず残してくださいね」
「もちろんです、ありがとうございます!」
可奈子は深くお辞儀し、貴史も軽く会釈した。
夕方、全員が港の倉庫に戻った。湊斗たちは安全ルートの確認を終え、千愛たちは講習の進捗を報告。可奈子は器材の借用許可を取り付けていた。
「すごい、全部順調だね!」柚が笑顔で言った。
「これなら計画通り進められるな」湊斗の言葉に全員が安堵の表情を浮かべた。
その時、柚のペンダントが淡く光り、微かな震動を感じた。
「また……光った」
全員が一斉にペンダントを見つめた。湊斗が眉をひそめる。
「これは……次の一手を急げってことかもしれないな」
翌朝、柚たちは再び港に集まった。まだ太陽は昇りきっていないが、海面はすでに黄金色に輝いていた。前日の成果を踏まえて、具体的なスケジュールが湊斗によって提示された。
「今日から潜水訓練と同時に、道具の調達と封印呪文の練習を進める。三日後にはテスト潜航を実施しよう」
「三日後……大丈夫かな」可奈子が不安げに呟くと、千愛が力強く答えた。
「やるしかないよ。みんなでやればきっとできる」
ドリューは潮流の最新データをホワイトボードに貼り付けた。
「この時間帯なら潮の流れが緩む。潜航にはここが最適だ」
カロリーナは嬉しそうに声を上げた。
「じゃあ私、今日もドローンで入口付近を確認してくる!」
航太は小さな声で続ける。
「ぼくは……呪文の発音を、みんなに教える」
その言葉に全員が微笑み、自然と空気が柔らかくなった。
午後には初めての合同訓練が行われた。千愛の指導で潜水器材の装着と基本動作を確認し、柚は呼吸のリズムを覚えるのに苦戦したが、諦めずに繰り返した。湊斗は全員の動きを見守り、的確な助言を送る。貴史は緊張している仲間を励まし、可奈子は器材の管理とサポートに奔走した。
訓練を終えるころ、柚は体の疲れと同時に、心の奥に湧き上がる達成感を感じていた。これが仲間と共に挑むということなのだと理解できたのだ。
「みんな……ありがとう」
その声は小さかったが、確かな決意を帯びていた。
夕暮れの港に戻ると、ペンダントが再び淡く光った。
「また光ったね……」
湊斗がそれを見つめ、低く呟いた。
「きっと遺跡が動き始めている。時間との勝負だ」
柚はペンダントを握り、静かに誓った。
――必ず成功させる。仲間と一緒に。
夏の海風が、彼らの決意を後押しするように吹き抜けた。


