暁の導標と羅針盤の少女

 全員で遺跡の出口へと向かう途中、柚は振り返り、深く一礼した。
  ――ありがとう。そして、さようなら。
  長い時間をかけて歩んできたこの遺跡とも、もう二度と会うことはないだろう。だが、その胸には確かな達成感があった。
  ドリューが潮流計算を再確認し、湊斗に報告した。
  「ルートは安定している。外への流れも安全だ」
  「よし、浮上しよう」湊斗が笑顔で指示を出す。
  全員が浮上姿勢を取り、ゆっくりと海面へ向かって泳ぎ始めた。水中は先ほどの緊張が嘘のように穏やかで、青く澄み渡っている。
  柚はペンダントを胸に当てたまま、静かに目を閉じた。
  ――ここに来てよかった。本当に、みんなと一緒でよかった。
  やがて光が差し込み、海面が近づく。水面を突き破った瞬間、彼らの目に広がったのは鮮やかな夕焼けだった。
  「……きれい」可奈子が感嘆の声を漏らす。
  カロリーナも同意するように笑った。
  「これ以上のご褒美はないわね」
  柚は水上で深呼吸をし、仲間たちの顔を見渡した。全員の表情が達成感と安堵で満ちていた。


 夕焼けの光は水面を赤く染め、波間に揺れる仲間たちを黄金色に包み込んでいた。
  湊斗が船へ向かう手を上げる。
  「さあ、帰ろう。みんな無事だ」
  千愛が笑いながら頷いた。
  「うん、全員そろってね」
  船に上がると、甲板に打ち寄せる海水の音が妙に心地よく感じられた。ドリューは航行計器を確認し、にこりと微笑む。
  「帰路も安定している。無事に港まで着ける」
  カロリーナが両手を広げて空を見上げた。
  「見て、この空! この景色のために頑張った甲斐があったわ」
  柚は一歩甲板の中央に出て、ペンダントを握りしめた。
  「おばあちゃん……遺跡を守れたよ」
  その声は誰にも聞こえなかったが、ペンダントが微かに温もりを返す気がした。
  可奈子が少し涙ぐんで柚に駆け寄り、笑顔を向けた。
  「ありがとう、柚ちゃん。あなたがいてくれてよかった」
  柚は照れくさそうに笑い、仲間たちを見回した。
  「ありがとう、みんなも……」
  港へ戻る船は、黄金色の海を滑るように進んでいった。夕焼けはやがて紫色に変わり、夜の帳が静かに下りていった。