暁の導標と羅針盤の少女

 制御盤が起動したその瞬間、遺跡全体に低い唸りが響き渡った。壁の文様が一斉に赤く光り、強い潮流が部屋の中を揺らす。
  「な、なんだ!?」カロリーナが体勢を崩し、千愛が慌てて支えた。
  航太が制御盤の表示を確認し、顔色を変えた。
  「暴走モードに移行してる! このままじゃ遺跡全体が崩壊する!」
  「そんな……止められないの?」柚が叫ぶ。
  湊斗は一瞬考え、すぐに全員に指示を飛ばした。
  「ドリュー、潮流計算の更新! カロリーナは出口の確保を! 千愛と可奈子は装備チェックして、緊急浮上の準備!」
  彼の声は落ち着いていたが、緊張感が滲んでいた。
  柚は制御盤に目を向け、ペンダントを握りしめた。
  ――このペンダントなら、何かできるかもしれない。
  窪みにペンダントをかざすと、光が共鳴し、制御盤のダイヤルが逆回転を始めた。しかしその抵抗は強く、すぐには止まらない。
  「湊斗! 何か他にできることは!?」
  「全員で回路を逆転させる! 航太、呪文の逆詠唱を!」
  「わ、分かった!」航太が必死に碑文を逆向きに読み上げ始めた。


 航太の声が震えながらも確かに響き渡る。
  「〈逆転せよ、潮の調律〉……」
  呪文が進むにつれて、赤く光っていた文様が紫色に変化し始めた。
  柚はペンダントを制御盤に押し当て、力を込めた。だが、装置はなおも暴走を続けている。
  「もっと力を……!」
  千愛が横に並び、柚の肩を押さえて支えた。
  「一人で抱え込むな、私たちがいる!」
  その言葉に柚は頷き、全員が制御盤に手を添えた。
  湊斗が叫ぶ。
  「三分間だ! 三分以内に止めないと崩れる!」
  ドリューは計測器を見つめ、潮流の変化を読み上げた。
  「外側の圧力、急激に下がってる! 時間がない!」
  柚の心に映るのは、町で笑う人々の顔、ここまで共に歩んできた仲間たちの姿だった。
  ――絶対に、守る。
  ペンダントがひときわ強く光り、制御盤のダイヤルが完全に逆回転を始める。航太の呪文が最後の言葉を紡いだ。
  「〈静まれ、潮の心臓〉!」


 制御盤から放たれていた赤い光が、ふっと消えた。遺跡を包んでいた振動が収まり、水の流れが穏やかに戻っていく。
  「止まった……?」可奈子が震える声でつぶやく。
  ドリューが計測器を確認し、大きく頷いた。
  「暴走は完全に停止した! 遺跡の安定化を確認!」
  柚は力が抜け、その場に膝をついた。千愛がそっと肩を抱く。
  「よくやったよ、柚」
  湊斗も安堵の笑みを浮かべた。
  「全員無事で何よりだ」
  ペンダントは淡い光を放ち、その後ゆっくりと輝きを失った。
  ――もう、この町を脅かすことはない。
  柚は心の中でおばあちゃんに報告した。
  制御盤の表示が緑色に安定したまま点滅を止め、遺跡全体は静寂に包まれた。
  カロリーナが満面の笑みを浮かべる。
  「これで全部終わったのね!」
  柚は笑いながら涙を拭った。
  「うん……終わった」