暁の導標と羅針盤の少女

 嵐の影響で町は多少の被害を受けたものの、幸いにも大きな損傷はなかった。復旧作業が進む中、柚たちは再び遺跡への潜航準備を始めていた。
  「潮流データは更新済み。嵐の影響で海底の地形が少し変わっている可能性がある」航太がタブレットを操作しながら報告する。
  「となると、ルートも見直しだね」湊斗が航海図を広げ、みんなの視線を集めた。
  ドリューが持参した海外製の解析ソフトを用い、新しい潮流計算を行う。
  「これで安全なルートを再設定できるよ」
  カロリーナはその計算結果をもとに、潜航時の安全確認手順を加えた。
  「危険が増えてるかもしれないけど、やらなきゃいけないことだから」
  柚はペンダントを握り、仲間を見渡した。
  「もう一度、あの遺跡に行って、完全に封印できたか確かめたい。……行ってくれる?」
  千愛が頷いた。
  「もちろん。ここまでやってきたんだもの」
  可奈子も手を上げた。
  「頼まれたら断れないしね!」
  湊斗は全員の顔を順番に見て、しっかりとうなずいた。
  「じゃあ決まりだ。明日、再潜航だ」


 翌朝、港には冷たい潮風が吹き抜けていた。昨日の嵐の余韻で空気が澄み、波の音だけが響いている。柚たちは船に潜水機材を積み込み、最終点検を行っていた。
  千愛がボンベの残量を確認し、リストに記録する。
  「全部満タン。予備も問題なし」
  可奈子は船内で通信機材のチェックをしていた。
  「港湾局との連絡もスムーズにできるよ。……って言っても、ちょっと緊張するな」
  柚は笑って肩を叩いた。
  「大丈夫。あなたならできるよ」
  ドリューは再計算した潮流データを表示し、全員に説明する。
  「今回のルートは潮流が弱い時間帯に合わせて設定してある。前回の裂け目じゃなく、新しい安定ルートを通る」
  航太はそのデータを暗唱するかのように繰り返し確認していた。
  「速度〇・五ノット、角度一二度修正……これで安全に行ける」
  湊斗は全員の表情を確かめるように見渡した。
  「何か不安なことは?」
  カロリーナが腕を組んで言った。
  「私は平気。でも、奥で何が待っているかは誰にも分からないわ」
  柚はペンダントを握りしめ、しっかりと頷いた。
  「だからこそ、みんなで行こう」


 出航前のミーティングが始まった。湊斗はホワイトボードを前に立ち、潜航の流れを確認する。
  「第一潜水班は柚、ドリュー、航太。第二班は千愛、カロリーナ、可奈子。僕は全体の指揮を取る。異常があれば即浮上、いいね?」
  全員がうなずくと、湊斗は微笑んだ。
  「では、出発だ」
  エンジンが始動し、船は静かに港を離れた。空は青く晴れ渡り、海面がきらきらと光を反射している。柚はデッキに立ち、深呼吸した。
  ――またあの場所に行く。でも、今回は恐怖よりも決意のほうが大きい。
  航海は順調で、目的海域に着くと全員が潜水服に着替えた。千愛は後輩に指導するような丁寧さで装備を確認している。
  「マスクよし、ホースよし。……よし、行こう」
  柚はペンダントを胸に収め、海へと飛び込んだ。冷たい水が体を包み、泡が視界を覆う。しかしその奥には、再び挑むべき遺跡が静かに待っていた。
  ――必ず確かめて、終わらせる。