八月二十七日、朝の天気予報は強い台風の接近を告げていた。空はまだ晴れていたが、南の海には黒い雲が広がり、風も少しずつ強さを増している。
柚は港で避難用の看板を手に、町内放送を聞いていた。
「午後には暴風域に入る可能性があります。皆さん、早めの避難準備を」
声は町全体に響き渡り、人々が慌ただしく動き始めた。
可奈子は避難誘導の担当を引き受けていた。彼女は地図を広げながら、避難所の場所を一人ひとりに説明している。
「こちらのルートを通ってください。高齢の方は車で送ります!」
その声は疲れているはずなのに明るく、聞いた人々を安心させた。
湊斗と千愛は物資搬入を手伝い、ドリューとカロリーナは港の係留ロープを補強した。航太は潮流データを確認し、最悪のケースに備えていた。
「今夜が山だな。港の水位が一時的に上がる可能性がある」航太がつぶやくと、柚は頷いた。
「わかった。みんなで気をつけよう」
昼過ぎ、風はさらに強まり、空の色も濃くなった。可奈子は汗を拭いながらも笑顔を絶やさない。
「みんな、避難所まであと少しだからね!」
その声に励まされ、人々は落ち着いて避難していった。
夕方になると、町のほとんどの人が避難所へと移動し終えていた。可奈子は最後尾の確認を行い、避難所の入口で深く息をついた。
「よし、全員無事……」
湊斗が駆け寄り、ペット用ケージを持った老夫婦を手伝う。
「この先の部屋にどうぞ。犬も一緒で大丈夫です」
老夫婦は何度も頭を下げて避難所に入っていった。
外はすでに強い雨が降り始めていた。風に押され、街路樹が大きくしなる。
「これからが本番だな」ドリューが雨具を整えながら言うと、カロリーナが無線を手にした。
「港のチェックは終わった。船も固定済み。でも、風速があと二時間でさらに上がる予報よ」
可奈子は疲れた表情を浮かべながらも笑顔を崩さなかった。
「よかった、これで心配事は一つ減ったね」
柚が心配そうに声をかける。
「可奈子、大丈夫? もう休んだ方がいいよ」
「ううん、最後まで見届けたいの」
やがて夜になると、雨と風の音は壁を叩く太鼓のようになった。避難所の中では子どもたちが不安げに顔を寄せ合っている。
可奈子は膝をつき、目線を合わせて笑った。
「大丈夫。お兄さんもお姉さんもみんな一緒だよ。怖くないよ」
その言葉に、子どもたちの表情が少し和らいだ。
深夜、暴風域が町を直撃した。窓の外では激しい風がうなり、時折何かが飛ばされる音が響く。避難所の中で人々は肩を寄せ合い、嵐が過ぎるのをじっと待った。
柚はペンダントを握り、心の中で祈った。
――どうか、被害が少なくて済みますように。
その横で可奈子が毛布を子どもにかけ直し、優しく声をかけていた。
「寒くない? 大丈夫だよ、すぐに終わるからね」
子どもは小さく頷き、毛布にくるまったまま目を閉じた。
夜明け前、風の音が少しずつ弱まっていった。明るくなった外を湊斗とドリューが確認しに行く。
「港の水位は上がったけど、係留ロープが持ちこたえてる!」
「町の中心部も大きな被害はない!」
その報告に避難所内は安堵の空気に包まれた。可奈子はその場に座り込み、ほっと息をついた。
「よかった……みんな無事で」
柚が駆け寄り、可奈子の手を握った。
「あなたのおかげだよ。本当にありがとう」
可奈子は照れ笑いを浮かべて、目を潤ませた。
嵐の夜は、こうして無事に明けたのだった。
柚は港で避難用の看板を手に、町内放送を聞いていた。
「午後には暴風域に入る可能性があります。皆さん、早めの避難準備を」
声は町全体に響き渡り、人々が慌ただしく動き始めた。
可奈子は避難誘導の担当を引き受けていた。彼女は地図を広げながら、避難所の場所を一人ひとりに説明している。
「こちらのルートを通ってください。高齢の方は車で送ります!」
その声は疲れているはずなのに明るく、聞いた人々を安心させた。
湊斗と千愛は物資搬入を手伝い、ドリューとカロリーナは港の係留ロープを補強した。航太は潮流データを確認し、最悪のケースに備えていた。
「今夜が山だな。港の水位が一時的に上がる可能性がある」航太がつぶやくと、柚は頷いた。
「わかった。みんなで気をつけよう」
昼過ぎ、風はさらに強まり、空の色も濃くなった。可奈子は汗を拭いながらも笑顔を絶やさない。
「みんな、避難所まであと少しだからね!」
その声に励まされ、人々は落ち着いて避難していった。
夕方になると、町のほとんどの人が避難所へと移動し終えていた。可奈子は最後尾の確認を行い、避難所の入口で深く息をついた。
「よし、全員無事……」
湊斗が駆け寄り、ペット用ケージを持った老夫婦を手伝う。
「この先の部屋にどうぞ。犬も一緒で大丈夫です」
老夫婦は何度も頭を下げて避難所に入っていった。
外はすでに強い雨が降り始めていた。風に押され、街路樹が大きくしなる。
「これからが本番だな」ドリューが雨具を整えながら言うと、カロリーナが無線を手にした。
「港のチェックは終わった。船も固定済み。でも、風速があと二時間でさらに上がる予報よ」
可奈子は疲れた表情を浮かべながらも笑顔を崩さなかった。
「よかった、これで心配事は一つ減ったね」
柚が心配そうに声をかける。
「可奈子、大丈夫? もう休んだ方がいいよ」
「ううん、最後まで見届けたいの」
やがて夜になると、雨と風の音は壁を叩く太鼓のようになった。避難所の中では子どもたちが不安げに顔を寄せ合っている。
可奈子は膝をつき、目線を合わせて笑った。
「大丈夫。お兄さんもお姉さんもみんな一緒だよ。怖くないよ」
その言葉に、子どもたちの表情が少し和らいだ。
深夜、暴風域が町を直撃した。窓の外では激しい風がうなり、時折何かが飛ばされる音が響く。避難所の中で人々は肩を寄せ合い、嵐が過ぎるのをじっと待った。
柚はペンダントを握り、心の中で祈った。
――どうか、被害が少なくて済みますように。
その横で可奈子が毛布を子どもにかけ直し、優しく声をかけていた。
「寒くない? 大丈夫だよ、すぐに終わるからね」
子どもは小さく頷き、毛布にくるまったまま目を閉じた。
夜明け前、風の音が少しずつ弱まっていった。明るくなった外を湊斗とドリューが確認しに行く。
「港の水位は上がったけど、係留ロープが持ちこたえてる!」
「町の中心部も大きな被害はない!」
その報告に避難所内は安堵の空気に包まれた。可奈子はその場に座り込み、ほっと息をついた。
「よかった……みんな無事で」
柚が駆け寄り、可奈子の手を握った。
「あなたのおかげだよ。本当にありがとう」
可奈子は照れ笑いを浮かべて、目を潤ませた。
嵐の夜は、こうして無事に明けたのだった。


