暁の導標と羅針盤の少女

 祭り当日、港周辺は朝からにぎわっていた。色とりどりの旗がはためき、屋台の準備をする人々の声が響き渡る。柚たちも早めに集合し、それぞれの担当に分かれて動き始めた。
  「今日は講演もあるんだよね、航太」柚が声をかけると、航太は少し緊張した表情を見せた。
  「う、うん……町の子どもたちに遺跡の話をするの、ちょっと緊張する」
  湊斗が笑って肩を叩いた。
  「大丈夫、君ならできる。みんな知識を楽しみにしてるよ」
  昼前、会場には子どもたちとその保護者が集まり始めた。航太は深呼吸し、マイクを手にした。
  「えっと……今日は、海の下に眠る《暁の導標》について話します」
  最初は声が少し震えていたが、徐々に落ち着きを取り戻し、遺跡の歴史や仕組みについて正確に説明を続けた。
  子どもたちは目を輝かせて聞き入っている。
  「その遺跡、ほんとに危なかったの?」
  「うん。でも、みんなで守ったから今はもう大丈夫だよ」航太は優しく答えた。
  講演が終わると拍手が湧き起こり、航太は照れながらも笑顔を見せた。柚たちはその姿を見て心から嬉しくなった。
  「すごいよ、航太。ちゃんと伝わってた」千愛が微笑むと、航太は小さく頷いた。
  「……ありがとう」


 講演の後、柚たちは屋台を回りながら町の人々と交流した。焼きそばの香ばしい匂い、金魚すくいの楽しげな声、太鼓の音――どこも笑顔にあふれていた。
  「なんだか、こんなに賑やかな町を見るの、久しぶりだね」可奈子が感慨深くつぶやいた。
  「うん……町のみんなが笑ってるのを見て、すごく嬉しい」柚は頷き、ペンダントをそっと握った。
  夕方には櫓の周りで盆踊りが始まった。異文化交流プログラムで訪れているドリューやカロリーナも混ざり、見よう見まねで踊っている。
  「ドリュー、意外とリズム感あるね!」千愛が笑うと、ドリューも笑顔で返した。
  「こういうの、楽しいな!」
  カロリーナは大胆にステップを踏み、周囲の子どもたちに拍手されていた。
  夜になると打ち上げ花火が空を彩った。大きな光の輪が夜空に咲き、海面に反射して揺れる。柚は仲間たちの顔を見渡した。
  ――この町を守れて、本当に良かった。みんなが笑ってる。それだけで十分だ。
  祭りが終わるころ、航太はもう一度子どもたちに囲まれていた。
  「お兄ちゃん、また遺跡の話してね!」
  航太は照れ笑いを浮かべつつも、自信に満ちた表情で頷いた。
  「うん、また話すよ。約束する」