暁の導標と羅針盤の少女

 町は夏祭りの準備でにぎわっていた。屋台の組み立て、提灯の取り付け、櫓の設営――すべての手が忙しく動いている。その中で千愛は、潜水機材の整備を続けていた。
  「本当に二足のわらじだね」可奈子が笑いながら声をかける。
  千愛は顔を上げ、額の汗をぬぐった。
  「祭りの準備も手を抜けないし、潜水訓練もやめられない。どっちも大切だから」
  湊斗が近づき、整備状況を確認する。
  「その責任感、頼もしいよ。だけど、無理はするな」
  千愛は少し照れながらも頷いた。
  「ありがとう。でも、やるって決めたからには最後までやるよ」
  柚も屋台の手伝いを終え、潜水用の道具を洗っていた。
  「町のみんなが喜んでくれるなら、私も頑張れる」
  ドリューは楽しげに提灯を吊りながら言った。
  「文化交流のいい機会だね。僕も手伝えて嬉しいよ」
  日が暮れるころ、広場には色とりどりの灯りがともった。千愛は全員を集め、潜水用スケジュールを示した。
  「明日は祭りだけど、午前中に潜航練習を一回だけ入れる。終わったらすぐ手伝いに戻ろう」
  湊斗が微笑んで言った。
  「了解。じゃあ、今夜は早めに休もう」
  柚はペンダントを握り、星空を見上げた。
  ――町を守った私たちが、今度は町を盛り上げる番だね。


 翌朝、千愛はまだ暗いうちから倉庫にいた。潜水機材の最終点検を終え、訓練用のスケジュールを確認する。
  「よし、これで準備完了」
  柚と湊斗が到着し、すぐに潜水練習が始まった。
  海は穏やかで、昨日の疲れも感じさせないほど体が動く。千愛は水中で手信号を送り、全員の連携を確認する。
  ――これなら、本番でもきっと大丈夫。
  浮上した千愛は笑顔で言った。
  「全員、動き完璧! このチームで本当に良かった」
  湊斗が頷く。
  「君が引っ張ってくれたからだよ」
  千愛は少し照れながらも、誇らしげに胸を張った。
  訓練を終えた後は、すぐに祭りの準備に合流した。柚と可奈子は屋台の装飾、カロリーナとドリューはステージの組み立てを担当した。
  「異文化交流プログラムのおかげで、祭りも国際的だね」ドリューが笑うと、カロリーナが肩をすくめる。
  「ま、爆破よりは安全な作業だしね」
  全員が笑い声を上げ、張り詰めていた空気が和んだ。
  夕暮れ、千愛は屋台の灯りがともる広場を見渡した。
  ――町がひとつになってる……。
  潜水のことも祭りのこともやり切ったという満足感が、胸に広がっていった。