暁の導標と羅針盤の少女

 本番前日、港には早朝から活気が満ちていた。封印作業に使用する船が用意され、器材が積み込まれていく。柚はライフジャケットを身につけながら、胸の奥が少し震えているのを感じていた。
  ――これで、いよいよ本番なんだ。
  湊斗が全員を集めた。
  「今日は本番を想定して、船上での動きを最終確認する。気になるところは全部洗い出そう」
  千愛が頷き、潜水用のロープを確認した。
  「安全は最優先。手順を体で覚えておこう」
  船が沖に出ると、潮風が頬を打った。柚は深呼吸して緊張を和らげる。そんな中、貴史が持ってきた保温ボトルを皆に配った。
  「温かいスープだよ。疲れる前にエネルギー補給を」
  湊斗が笑みを浮かべる。
  「いつも気が利くな、貴史は」
  柚もスープを飲み、体が内側から温まるのを感じた。緊張も少しずつ解けていく。
  「ありがとう、貴史さん。なんだか元気出てきた」
  貴史はにこやかに言った。
  「みんなが無事で戻ってきてくれることが一番だからね」
  その後の動作確認は順調に進み、航太の指示で航路の確認も無事終わった。
  「これなら明日も大丈夫」航太が小さく頷くと、千愛が笑みを浮かべた。
  「本当に頼りになるね」
  カロリーナもドローンを確認しながら声を上げた。
  「全て順調! 明日は勝負よ!」


 昼休憩になると、再び貴史が差し入れを用意していた。今度はサンドイッチと果物、それに温かいお茶だ。
  「甘いものも用意しておいたよ。疲れたときは糖分が一番だからね」
  柚はサンドイッチを受け取り、一口かじった。
  「ん……おいしい。貴史さんって、本当に気が利くよね」
  カロリーナが笑いながら肩を軽く叩いた。
  「彼がいると安心するのよ。まるでチームのお父さんみたい」
  「お父さんかぁ……まあ、悪くない呼び方だね」貴史は照れくさそうに笑った。
  その後、午後の確認作業に入った。ドリューは航路に合わせた潮流計測を行い、航太がそのデータを即座に解析する。千愛は潜水装備の動作チェックを続け、可奈子は器材の固定を何度も確認した。
  湊斗が声を張る。
  「全員、明日の準備はこれで完璧だ。今日の動きは素晴らしかった」
  柚はペンダントを握りしめ、灯台を見つめた。針は相変わらず裂け目の方向を指している。
  ――いよいよだ。明日、私たちは遺跡にたどり着く。
  その胸の奥で強い決意が固まった。
  夕暮れ、船が港に戻ると、空は茜色に染まっていた。湊斗が全員に向かって言った。
  「明日が本番だ。今日はしっかり休んで備えよう」
  柚たちは無言で頷き、それぞれの帰路についた。