暁の導標と羅針盤の少女

 翌朝、倉庫では本番前最後の潜航シミュレーションが行われていた。朝早くから集まった仲間たちは、眠気を吹き飛ばすかのように動き回っていた。
  「今日は三回連続でシミュレーションをするよ!」千愛の声に、柚は深呼吸して答えた。
  「よし、頑張ろう!」
  午前の二回目を終えたころ、皆はさすがに疲れを見せ始めていた。そのとき、倉庫のドアが開き、貴史が大きな紙袋を抱えて入ってきた。
  「みんな、休憩しよう。差し入れだ」
  袋の中には、町のパン屋で作られた焼きたてのサンドイッチと、よく冷えたジュースがぎっしり詰まっていた。
  「わぁ、ありがとう!」可奈子が目を輝かせた。
  全員がその場に座り込み、サンドイッチを頬張った。柚はひと口食べて、思わず笑みを浮かべた。
  「おいしい……。体に染みるね」
  貴史は柔らかな声で言った。
  「みんな、本当に頑張ってるからね。こういうときはしっかり休んで、エネルギー補給しないと」
  カロリーナがジュースを飲み干し、勢いよく立ち上がった。
  「よし! 午後も全力でいくわよ!」
  その明るさに場の空気が一気に軽くなる。ドリューもにこやかに頷いた。
  「彼女の元気はチームの武器だな」
  差し入れのおかげで、午後のシミュレーションはさらに充実したものになった。柚たちの動きは一段とキレを増し、本番さながらのスピードでルートをこなしていった。


 夕方、三回目のシミュレーションを終えたころには、全員がぐったりとしていた。柚もマスクを外しながら思わず腰を下ろした。
  「さすがに疲れた……」
  そのとき、貴史がまたもや袋を抱えて現れた。
  「みんな、甘いものも欲しいだろうと思って」
  袋の中には、町の和菓子屋で買った団子と羊羹が詰まっていた。
  「わぁ、甘いもの……助かる!」カロリーナが目を輝かせた。
  「こういうときの差し入れって、本当にありがたいよね」千愛も笑顔を見せた。
  柚も一口頬張り、体の疲れが和らいでいくのを感じた。
  「甘いものって元気になるね……」
  休憩しながら、湊斗が口を開いた。
  「町のみんなが協力してくれて、本当にありがたいよな。こうやって差し入れが届くのも、その証拠だ」
  ドリューが頷き、笑みを浮かべた。
  「文化は違っても、気持ちは一緒。こういうの、いいね」
  その日の終わりには、全員の表情に笑顔が戻っていた。疲れはあっても、士気は高まっている。柚はペンダントをそっと握りしめ、灯台を見つめた。
  ――この町は一つになってる。だから私も全力で頑張らないと。
  夜の港は静かで、星空が広がっていた。風が頬を撫で、明日に向かう決意を後押ししてくれているように感じられた。