潮風の腕輪と海守り隊の夏

 九月一日。新学期の朝、宮海中学校の校庭には夏の名残を感じさせる潮風が吹いていた。
  凪桜は吹奏楽部への入部届を握りしめ、昇降口をくぐる。かつて旧灯台で拾った腕輪は、今は灯台博物館のガラスケースの中にあり、彼女の手首は何も飾られていなかった。
  「おはよう、凪桜」大河が笑顔で手を振る。
  「おはよう。生徒会の立候補、もう出した?」
  「ああ。町を守ったあとで学校も守らなきゃな」
  亮佑は新しい研究サークルのチラシを配り、梨奈は図書室でのディベート会を企画、稜は昼休みに小さなライブを開く予定を立てている。玲菜は避難訓練の新マニュアルを完成させていた。
  みんなが、それぞれの未来に向かって歩き出している。
  始業式のチャイムが鳴り、凪桜は校舎の窓から差し込む光に目を細めた。潮風がふわりと教室に入り込み、夏の出来事を思い出させる。
  ——あの日、誰かを守りたいと願った自分は、もう一人じゃない。仲間と一緒に前を向ける。
  彼女は深呼吸し、胸を張った。「今日から、また新しい一歩だ」
  大河たちと手を合わせ、笑顔を交わす。潮騒はもう遠くで静かに響くだけだったが、その代わりに彼女の心には確かな温もりが残っていた。
  こうして、凪桜と仲間たちの夏は終わり、新しい季節が始まった。