海底の異変は止まらず、ついに沖合で海面が盛り上がった。轟音を立てて迫る白い壁——局地津波だった。
  「来るぞ、全員高台へ!」玲菜が避難ルートの地図を片手に叫ぶ。
  避難訓練で子どもたちに教えていた成果が現れ、町民は混乱せず小学校の高台へ走った。
  凪桜は波を見据えて腕輪を握りしめた。「このままじゃ港が全部飲まれる……!」
  「凪桜、やめろ! 無理だ!」大河が叫ぶ。
  だが凪桜は首を振った。「この力は、守るためにあるんだ!」
  腕輪が強く輝き、風が全身を包み込む。髪が舞い上がり、足が地を離れる感覚——まるで空気そのものと一体になったかのようだった。
  凪桜は堤防の先端に立ち、両手を広げる。「お願い、風よ——!」
  強烈な突風が生まれ、波頭を切り裂くように吹き抜ける。しかし津波はなお勢いを増して迫ってくる。
  「もっと……!」全身の力を込めた瞬間、体が一気に軽くなり、風と一体化するように空へ浮かび上がった。
  ——守るためなら、怖くない。
  汐里の声が重なった。『一緒に……守ろう』
  凪桜は涙を浮かべながら笑った。「うん、一緒に!」
  そのとき、稜のドローンが上空から全てを記録していた。津波と少女を包む光の渦。それはただの映像ではなく、人々に「守る」という意味を突き付ける瞬間となった。
  波はなお迫る——だが凪桜の覚悟は揺るがなかった。