七月三十日、町役場。議会の緊急会合が開かれていたが、避難指示の発令手続きはなぜか遅れていた。
  「おかしいな……」大河が眉をひそめる。「本来なら、避難計画の案内は今日の朝に町全域へ出ているはずだ」
  凪桜たちは役場の秘書課を訪ねた。そこで対応に出たのは、いつも温厚な議会秘書の田沼だった。しかし、その表情は硬い。
  「避難指示はまだ……調整中なんです」
  「どうして? もう時間がないのに!」玲菜が詰め寄る。
  そのとき亮佑が小さな声で言った。「……何か、誰かに止められている?」
  田沼の手がわずかに震えた。
  「田沼さん、本当は何があったんですか?」大河は低く静かな声で問いかける。
  田沼は視線を泳がせ、やがて小さな声で告白した。「……セレスティックから、金を……。家族を守るためだと……」
  凪桜は胸が締め付けられた。しかし大河は責めなかった。
  「田沼さん、あなたも家族を守りたいんですよね。でも、それで町全体を危険にさらすのは違う」
  田沼は俯き、拳を握った。
  「……私は間違っていました。今から避難指示を出します」
  彼の決断により、町全域への避難アナウンスが流れ始めた。
  外に出た凪桜は空を見上げた。曇天の下、腕輪がかすかに光る。
  ——裏切りすら、守りたいという気持ちから生まれるのか。
  それでも、この町はひとつになろうとしている。
  「みんなで……必ず守る」凪桜はそうつぶやき、仲間たちと共に次の準備へ向かった。