七月二十九日。掘削開始予定日まであと三日。港には巨大な掘削船が停泊し、クレーンやドリルが不気味に光っていた。町全体が重い空気に包まれ、通りを歩く人々も言葉少なだった。
  「あと三日……」凪桜は港を見つめながら呟く。
  大河は腕を組み、町内会の避難計画書を広げていた。「念のため、避難計画を先に回しておくべきだな」
  玲菜は頷き、手帳を取り出す。「学校を避難拠点にする準備も進めておく」
  一方で稜は近所の子どもたちを集め、防災指導を始めていた。「逃げるときはランドセル捨てて! 靴は履き替えなくていい! いいか、命が一番だ!」子どもたちは真剣に頷き、緊張した空気が少し和らぐ。
  そんな中、凪桜はふらついた。
  「凪桜!?」亮佑が支える。
  「……大丈夫、ちょっと疲れただけ」だが体の奥が重い。腕輪を酷使した反動か、全身の筋肉が悲鳴を上げていた。
  海守り隊は一度学校の空き教室に集まり、体制を整え直した。亮佑はパソコンで地震計のリアルタイム監視を設定し、梨奈は追加の啓発資料を印刷する。
  凪桜は机に突っ伏しながら、心の奥で腕輪に問いかけた。
  ——私は本当に守れるの?
  そのとき、柔らかな風が髪を揺らし、腕輪がほのかに光った。まるで「大丈夫」と答えているかのようだった。
  「無理しすぎないで」亮佑がそっと声をかける。
  凪桜は微笑んで頷いた。「うん。でも……絶対に止めるから」
  カウントダウンは始まっていた。残された時間は、わずか三日——。