潮風の腕輪と海守り隊の夏

 翌日、凪桜は一人で旧灯台を訪れていた。
  昨日の潜入で得た証拠は心強いものだったが、それ以上に、腕輪の光が以前より強くなっていることが気になっていた。
  「あなたは……何者なの?」
  灯台の頂上に立ち、海を見下ろしながら腕輪に問いかける。すると視界が一瞬歪み、潮騒の音が異様に鮮明になった。
  ——気づけば、そこは百年前の港町。
  小さな帆船が行き交い、灯台のふもとでは子どもたちが遊んでいる。その中に、ひとりだけ違う雰囲気の少女がいた。
  長い黒髪を結ったその少女は、妹らしき幼い子の手を握り、穏やかに笑っていた。だが次の瞬間、大きな波が港を襲う。木船が転覆し、人々が悲鳴を上げた。
  少女は迷わず妹を庇い、波に呑まれていった——。
  「まって!」凪桜が叫ぶと同時に視界が戻り、膝から崩れ落ちた。腕輪は強く光り、淡い声が耳に届く。
  『……守りたかったの』
  涙が頬を伝う。守ることを願い、命を落とした少女の思いが、この腕輪に宿っているのだと悟った。
  「あなたの想い……私が継ぐ」
  凪桜は立ち上がり、海に向かって深く息を吸った。潮風が優しく頬を撫でる。その風は、まるで少女が微笑んでいるかのように温かかった。
  ——腕輪と共に歩むこと。それが今、自分にできる答えだ。