波打ち際の約束―再会した幼なじみと始まるひと夏の恋

 将吾は時計塔の縁に立ちながら、健心をまっすぐ見据えていた。
 「未来を賭けた戦い……?」
  健心が問い返すと、将吾は静かにうなずいた。
 「お前たちは時間を変えた。だが、変えた結果は必ずしもいい方向とは限らない。今のままでは、この街は存在そのものを失う」
  その言葉に真由が息をのむ。
 「存在そのもの……って、街が消えるってこと?」
 「そうだ」
  将吾はわずかに視線を落とし、言葉を選ぶように続けた。
 「お前が過去を変えた瞬間、街は“別の時間軸”に切り離された。そこで時間を支配する者――菜々に乗っ取られつつある」
  早苗が険しい表情になる。
 「菜々は私たちの仲間だったはずよ。どうして支配者なんて……」
 「理由はまだわからない。でも、放っておけば街は消滅する。お前たちは“鍵”だ。その力で時間を解放しろ」
  将吾の視線は健心と真由、二人の手に向いていた。懐中時計がわずかに震えている。
 「どうすればいい?」
  健心の問いに将吾は短く答えた。
 「時の断層に入り、菜々を止める。それが唯一の方法だ」
 「……危険なんだろうな」
 「命を賭ける覚悟がいる」
  将吾はそう言うと、腕を広げて塔から飛び降りた。地面に降り立つと、彼はゆっくり歩いてくる。
  和希が剣を握り直す。
 「俺たちも一緒に行く」
 「いや」将吾は首を横に振った。「この戦いは“鍵”を持つ二人にしかできない」
  真由は唇を噛みしめ、健心を見た。
 「私、全部忘れるかもしれない。でも……あなたがいるなら、行ける」
  その言葉に健心は力強くうなずいた。
 「なら、行こう」
  将吾は二人を見つめ、ゆっくりと目を閉じた。
 「時の断層は、街の中心部にある古い図書館の地下だ。そこから“時間の底”に入れる。だが――」
  将吾の目が鋭く光る。
 「戻って来られる保証はない」
 「それでも行く」健心の答えは迷いがなかった。
  真由は懐中時計を握りしめ、そっと微笑んだ。
 「じゃあ……行こう。時間の底へ」
  その瞬間、懐中時計が光を放ち、二人の周囲に複雑な紋様が浮かび上がった。
  空気がねじれ、景色が暗転する――。
  気がつくと、そこは無数の歯車と砂時計が浮かぶ、異様な空間だった。
  時間の断層――過去と未来が混ざり合う、世界の裏側。
  真由が小さく震える。
 「ここが……時間の底?」
 「そうだ」将吾の声が背後から響く。しかし、その声はどこか悲しげだった。
 「さあ、菜々を止めろ。すべてはそこからだ」