波打ち際の約束―再会した幼なじみと始まるひと夏の恋

 鎖が床を滑り、健心と真由を絡め取ろうとする。
  和希は剣を構え、早苗は鎖の動きを読むように目を細めた。
 「健心、真由を守って! 時間は稼ぐ!」
  早苗が叫ぶと同時に、和希の剣が火花を散らしながら鎖を切り裂いた。
  しかし、菜々は眉ひとつ動かさない。
 「無駄だよ。切っても切っても再生する」
  確かに鎖は切れた端から黒い霧をまとい、すぐに元に戻る。
  そのとき真由が声を上げた。
 「やめて! 誰も傷つけないで!」
  彼女の瞳から光があふれ出し、体の紋様が淡く輝いた。
  すると鎖が一瞬だけ動きを止める。
  菜々が表情を変えないまま呟いた。
 「……やはり、君には“鍵”の素質がある」
 「鍵?」
  健心が問い返すと、菜々は静かに頷いた。
 「この時空を閉じるための“鍵”だ。だからこそ、君を連れ帰らなければならない」
  鎖が再び動き出し、真由を狙う。
  健心は彼女を抱き寄せ、身を挺して鎖を防いだ。
  激痛が走る――しかし、その痛みよりも強い感覚が胸を貫いた。
 「……俺は、絶対に離さない」
  健心の叫びと同時に、懐中時計が再び光を放ち、鎖を弾き飛ばす。
  その光景を見て、菜々は初めて驚いたように目を見開いた。
 「……時空の記憶が……健心、あなたも“鍵”だったのね」
 「どういう意味だ!」
  しかし菜々は答えず、鎖と共に影に溶けるように姿を消した。
  静寂が戻った教室で、真由は震える声を上げた。
 「私……怖い……でも、あなたがいてくれたら……」
  彼女は言葉を探すように健心を見つめた。
 「忘れても、何度でも思い出させてくれる?」
 「ああ、約束する」
  健心の言葉に、真由はかすかに笑った。
  和希と早苗が駆け寄ってくる。
 「健心、怪我は?」
 「大丈夫だ。でも……これでわかった」
  健心は懐中時計を見つめ、強く拳を握った。
 「俺たちの戦いは、時間を奪われないための戦いだ」
  その時、上空から再び声が響いた。
 「決意はできたか?」
  見上げると、将吾が時計塔の上に立っていた。
  未来の自分は冷たい目で、しかしどこか誇らしげに微笑んでいる。
 「ならば――未来を賭けた戦いに来い」