健心が目を覚ますと、辺り一面が闇に覆われていた。
足元には何もなく、ただ無限に続く黒い床が広がっている。遠くにはぼんやりとした光が一点だけ浮かび、そこに真由の姿が見えた。
「真由!」
健心は駆け寄ろうとする。しかし足が重い。まるで鎖で縛られているようだった。
声の主が響く。
「その足は、過去に囚われた重みだよ」
振り向くと、さっきの菜々がいた。いや、彼女ではない。瞳は真っ黒で、感情の光が一切なかった。
「お前……菜々じゃないな」
「正解。私はこの時間を司るもの。ここは、選ばれなかった未来の断層」
「選ばれなかった未来……?」
「そう。お前たちが五年前に選ばなかった道、その全てがここに積もっている」
真由が光の中から叫んだ。
「健心、動いちゃダメ! この空間はあなたを選ばなかった未来に引き込む罠よ!」
しかし、もう遅かった。健心の視界がぐにゃりと歪み、知らない景色が次々と映し出される。
そこでは、健心が真由に告白しないまま卒業する未来、街が崩壊していく未来、そして――真由が別の誰かと幸せそうに笑っている未来。
「やめろ……見せるな!」
健心は頭を抱えた。
すると、耳元で将吾の声が響いた。
「選ばなかった未来に囚われるな。今を選べ!」
次の瞬間、足を縛っていた重みが消えた。
健心は真由に向かって走り、光の中へ飛び込む。
二人は闇の外に弾き出され、再び赤黒い空の下に立っていた。
だが菜々――いや、時間を支配する何か――もそこにいた。
「逃がさない……お前たちは、時間をねじ曲げた罪人だ」
無数の鎖が一斉に襲いかかる。
その瞬間、和希と早苗が現れた。
「健心! 真由!」
和希は手にした剣で鎖を切り裂き、早苗は懐中時計を奪い取る。
「これが原因ね……でも、ただ壊せばいいってもんじゃないわ」
早苗の手に時計が触れた瞬間、また強い光が走った。
気づけば健心たちは元の校舎屋上に戻っていた。時計塔の針は再び動き、夜風が吹き抜ける。
真由は膝から崩れ落ち、震えていた。
「健心……ごめん、私……もう、あなたのことを……」
彼女の目には迷いが浮かび、名前を呼ぶ声が途中で途切れた。
懐中時計の呪いが、真由の記憶を削り始めていたのだ。
健心は彼女の肩を抱き寄せ、強く言った。
「大丈夫だ、真由。俺が全部思い出させる。何度でも」
その決意に、将吾はわずかに笑った。
「それでいい。だが覚悟しろ、運命を変えるっていうのは……そのくらい重い」
赤黒い空で見たものは幻だったのか、それとも未来の一部だったのか――答えはまだわからない。
ただ一つ確かなのは、健心と真由がもう後戻りできない道を選んだということだった。
足元には何もなく、ただ無限に続く黒い床が広がっている。遠くにはぼんやりとした光が一点だけ浮かび、そこに真由の姿が見えた。
「真由!」
健心は駆け寄ろうとする。しかし足が重い。まるで鎖で縛られているようだった。
声の主が響く。
「その足は、過去に囚われた重みだよ」
振り向くと、さっきの菜々がいた。いや、彼女ではない。瞳は真っ黒で、感情の光が一切なかった。
「お前……菜々じゃないな」
「正解。私はこの時間を司るもの。ここは、選ばれなかった未来の断層」
「選ばれなかった未来……?」
「そう。お前たちが五年前に選ばなかった道、その全てがここに積もっている」
真由が光の中から叫んだ。
「健心、動いちゃダメ! この空間はあなたを選ばなかった未来に引き込む罠よ!」
しかし、もう遅かった。健心の視界がぐにゃりと歪み、知らない景色が次々と映し出される。
そこでは、健心が真由に告白しないまま卒業する未来、街が崩壊していく未来、そして――真由が別の誰かと幸せそうに笑っている未来。
「やめろ……見せるな!」
健心は頭を抱えた。
すると、耳元で将吾の声が響いた。
「選ばなかった未来に囚われるな。今を選べ!」
次の瞬間、足を縛っていた重みが消えた。
健心は真由に向かって走り、光の中へ飛び込む。
二人は闇の外に弾き出され、再び赤黒い空の下に立っていた。
だが菜々――いや、時間を支配する何か――もそこにいた。
「逃がさない……お前たちは、時間をねじ曲げた罪人だ」
無数の鎖が一斉に襲いかかる。
その瞬間、和希と早苗が現れた。
「健心! 真由!」
和希は手にした剣で鎖を切り裂き、早苗は懐中時計を奪い取る。
「これが原因ね……でも、ただ壊せばいいってもんじゃないわ」
早苗の手に時計が触れた瞬間、また強い光が走った。
気づけば健心たちは元の校舎屋上に戻っていた。時計塔の針は再び動き、夜風が吹き抜ける。
真由は膝から崩れ落ち、震えていた。
「健心……ごめん、私……もう、あなたのことを……」
彼女の目には迷いが浮かび、名前を呼ぶ声が途中で途切れた。
懐中時計の呪いが、真由の記憶を削り始めていたのだ。
健心は彼女の肩を抱き寄せ、強く言った。
「大丈夫だ、真由。俺が全部思い出させる。何度でも」
その決意に、将吾はわずかに笑った。
「それでいい。だが覚悟しろ、運命を変えるっていうのは……そのくらい重い」
赤黒い空で見たものは幻だったのか、それとも未来の一部だったのか――答えはまだわからない。
ただ一つ確かなのは、健心と真由がもう後戻りできない道を選んだということだった。



