クロノスとの対話から一週間。
  街は完全に落ち着きを取り戻し、人々の生活も以前のように穏やかなものに戻っていた。
  健心と真由は学校の屋上に立っていた。
  春の風が吹き抜け、桜の花びらが舞う。
 「なんだか、不思議だね」真由がつぶやく。
 「何が?」健心が首をかしげる。
 「この景色、前にも見たことがある気がする。でも、前よりもっと大切に感じるの」
  健心は笑って答えた。
 「それはきっと、未来を選んだからだな」
  真由は懐中時計を取り出し、光にかざした。
  あの時とは違い、時計は静かに時を刻んでいるだけだった。
 「もう、この時計を使う必要はないんだね」
 「ああ。でも……持っておこう。これも、俺たちが選んだ証だから」
  そこへ和希、早苗、菜々がやってきた。
 「おーい、何ロマンチックな雰囲気出してんだよ」和希が茶化す。
  早苗は笑いながら言った。
 「でも、いいことだと思うな。二人とも本当に変わったね」
  菜々は少し照れながらも微笑む。
 「これからは普通の時間を楽しみましょう」
  将吾も姿を現し、腕を組んで言った。
 「未来は一度守られた。でも、試練はまた来る。その時どうするか……それもお前たち次第だ」
  健心は頷き、真由の手を握った。
 「その時は、またみんなで未来を選ぶさ」
  真由はその手を握り返し、まっすぐ健心を見た。
 「私……今度は絶対、忘れない」
  健心は優しく微笑む。
 「俺もだ。何度でも、君を選ぶ」
  桜の花びらが舞い、春の光が二人を包んだ。
  懐中時計は静かに時を刻み――彼らの新しい日常が始まった。