翌朝、健心たちは学校の裏山にある廃神社に集まっていた。
  懐中時計の針は、ここを指し示していた。
  和希が辺りを見回す。
 「こんな場所に“時の頂”への入口があるのか?」
  菜々は時計をかざし、小さく呟く。
 「ここ……時間の流れが歪んでる」
  すると空気が震え、境内の中央に光の柱が現れた。
  将吾が説明する。
 「これが“時の頂”への道だ。入れば二度と普通の時間に戻れない可能性がある」
  真由が健心の腕をそっと握った。
 「それでも行くんだよね?」
 「ああ。ここで逃げたら、未来を選んだ意味がない」
  全員が光の柱に足を踏み入れた瞬間、景色が歪んだ。
  気づけばそこは、無限の階段が空に向かって伸びる、異様な空間だった。
  上下左右の感覚がなく、足元には星々が輝いている。
  早苗が驚きの声を上げる。
 「これが……“時の頂”?」
  将吾は頷く。
 「ここを登り切った先にクロノスがいる」
  だが、その時――空気が一瞬にして凍りついた。
  目の前に現れたのは、あの鎧に身を包んだ代行者だった。
 「再び来たか、“鍵”の持ち主たち」
  赤い目が健心と真由を射抜く。
 「お前たちに選択肢はない。ここで消す」
  和希が剣を抜き、前に出た。
 「今度は簡単にはやられないぞ!」
  代行者は剣を構え、冷たく告げた。
 「ならば証明してみろ。“存在する価値”を」
  戦いが始まった。
  代行者の剣と和希の剣が激しくぶつかり合い、火花が散る。
  菜々が鎖でサポートし、早苗が影の動きを読む。
  しかし代行者は以前よりも速く、重い。
  健心は真由と目を合わせた。
 「二人の力を合わせる!」
  真由がうなずき、二人の腕の紋様が光を放つ。
  懐中時計の針が逆回転し、代行者の動きが一瞬止まった。
 「今だ!」
  健心と真由は同時に懐中時計をかざし、強烈な光を放つ。
  代行者の体が弾き飛ばされ、階段の下まで落下する――が、すぐに宙で静止し、赤い目が再びこちらを向いた。
 「……やはり、お前たちは危険だ」
  代行者は剣を地面に突き立てると、周囲の時間を完全に止めた。
  動けるのは代行者と、“鍵”を持つ健心と真由だけ。
 「お前たちだけは……ここで消す」
  冷たい声が響き、剣が光を帯びる。


 時間が止まった空間で、風も音も消えていた。
  動けるのは健心と真由、そして代行者だけ。
  代行者の剣が淡く光を帯び、無数の残像を生み出しながら迫ってくる。
 「避けろ、真由!」
  健心は彼女の腕を引き、階段を転がるように避けた。
  剣の一閃が通った瞬間、空間が裂けるように光った。
 「……このままじゃ押し切られる!」
  真由は懐中時計を握りしめ、決意の声を上げた。
 「じゃあ……私たちの時間を合わせよう!」
  健心はうなずき、彼女の手を握る。
  二人の腕の紋様が輝き、時計の針が逆回転を始めた。
  代行者の剣が再び振り下ろされるが、その動きが一瞬だけ鈍る。
 「今だ!」
  健心と真由は同時に懐中時計をかざし、強烈な光を放った。
  光は代行者を包み、赤い目がわずかに揺らぐ。
 「……これが“鍵”の力か」
  代行者は剣を下ろし、静かに言った。
 「お前たちの存在……やはり均衡を乱す。だが、ただ消すだけでは解決にならない」
  健心が剣先を見据え、叫ぶ。
 「じゃあ、どうすればいい!」
  代行者はしばし沈黙し、やがて剣を収めた。
 「時の頂でクロノス自らがお前たちを裁くだろう。その結果次第で、お前たちの存在は決まる」
  真由が小声で健心に問いかける。
 「……裁かれるって?」
 「分からない。でも、避けては通れないんだろうな」
  代行者は最後に言葉を残し、姿を霧のように消した。
 「時の頂で会おう。逃げ場はない」
  止まっていた時間が動き出し、風が吹き抜ける。
  和希と早苗、菜々がようやく動けるようになり、慌てて駆け寄ってきた。
 「大丈夫!?」早苗が声を上げる。
 「なんとかね……」健心は息をついた。「でも、逃げ場はもうないらしい」
  真由が懐中時計を胸に抱き、静かに言った。
 「行こう、健心。クロノスに会いに」
 「……ああ。未来を決めるためにな」