翌日、健心たちは学校の屋上に集まっていた。
  和希が険しい表情で資料を広げる。
 「調べた限り、“クロノス”って名前は古代からある神話の時間神だ。でも、昨日の代行者はただの伝説じゃない。現実に存在してた」
  早苗は腕を組む。
 「伝説が現実化するなんて、ありえないよね……」
  菜々は懐中時計を指で弾きながら言った。
 「ありえるわ。私たちが時間をねじ曲げたこと自体、ありえなかったことだから」
  将吾は健心の前に立ち、低い声で告げた。
 「クロノスは“時間の均衡”を司る存在だ。その均衡を壊したと判断されれば、容赦なく排除に動く」
 「じゃあ……俺たちが狙われてるのは、過去を変えたから?」健心が問うと、将吾はうなずいた。
 「お前たちの選択が、クロノスにとっては秩序を乱す要因なんだ」
  真由は唇を噛みしめる。
 「でも、あの時選ばなかったら、街は消えてた」
 「そうだ。だから俺はお前たちを責める気はない」将吾は真剣に続けた。「だがクロノスは情を持たない。均衡こそが全てなんだ」
  沈黙を破ったのは菜々だった。
 「昨日の代行者、次に会ったら本当に消される可能性がある」
  健心は懐中時計を強く握った。
 「消されるって言われて黙ってるわけにはいかない。俺たちの未来は、俺たちで守る」
  真由もその手を握り返す。
 「私も……もう逃げない。健心と一緒に、未来を選ぶ」
  その決意に、将吾が深く息を吐いた。
 「ならば一つだけ方法がある」
 「方法?」
 「クロノスと直接対話することだ」
  早苗が目を丸くする。
 「えっ……そんなことできるの?」
 「できる。だが、場所は“時の頂”――時空の最深部。普通の人間なら到達できない場所だ」
  菜々が頷く。
 「でも私たちには懐中時計がある。鍵としての力を使えば……」
  和希が剣を肩に担いで笑う。
 「決まりだな。次の目的地は“時の頂”か」
  健心は真由を見つめ、真剣に言った。
 「一緒に来てくれるか?」
  真由は微笑んで答えた。
 「もちろん。何度でもあなたと未来を選ぶ」
  その瞬間、懐中時計が光り、指し示す方向が変わった。
  新しい道標――“時の頂”への道が開かれたのだ。